メンバー変更でも変わらない左サイドを起点とした攻撃。アーセナル 対 ヴォルスクラ レビュー【2018/19 EL GS第1節】
エメリ体制になって最初のヨーロッパリーグの試合。ヴェンゲル体制では大幅なターンオーバーで若手を多く起用して望んでヨーロッパリーグであるが、エメリはターンオーバーを抑えて試合に臨んだ。
Contents
試合結果とフォーメーション
2018/09/20 ヨーロッパリーグ GS第1節
アーセナル 4-2 ヴォルスクラ
32分 オーバメヤン
48分 ウェルベック
56分 オーバメヤン
74分 エジル
76分 チェスナコフ
94分 シャルパル
PickUpData:メンバーが変わっても変わらない左サイドを起点とした攻撃
マッチスタッツ(左:アーセナル、右:ヴォルスクラ)
引用:whoscored.com
平均ポジション(左:アーセナル、右:ヴォルスクラ)
引用:whoscored.com
攻撃サイド(左:アーセナル、右:ヴォルスクラ)
引用:whoscored.comヒートマップ(左:アーセナル、右:ヴォルスクラ)
引用:whoscored.com
若手を積極的に起用するターンオーバーではなく、主力+控えという構成であったものの、リーグ戦ではかなりスタメンを固定していたため、いつもとは少し異なる布陣に。
それでも、チームとしてのスタイルは変わらず、左サイドを主に起点として攻める形に。左ボランチはジャカではなくエルネニーであったが、ジャカ同様、ビルドアップ時には左サイドのタッチライン近くまで寄ったポジショニングを取ることが多かった。(詳細は後述参照)
ただし、2列目のメンバーのプレースタイルはこれまでと少し異なった。リーグ戦では、左からオーバメヤン、ラムジー、エジルという布陣で、押し込んだときにはオーバメヤンがPAに入り、ラムジーが左サイドを使い、エジルが中央に位置するという形を取ることが多かったが、この試合では、左からイウォビ、ムヒタリアン、ウェルベックとなり、右のウェルベックがPAに入り、イウォビは左サイド中心、ムヒタリアンは中央寄り、という形が多かった。
FWも、ラカゼットであれば、右サイドに開いてボールを受けて一度起点を作り、右SBと絡むようなプレーができるが、オーバメヤンはよりゴール前でのプレーを好むため、結果的に、いつも以上に左サイドを主にした攻撃となったのだろう。
PickUpData:イウォビの左サイド突破
攻撃スタッツ(左:アーセナル、右:ヴォルスクラ)
引用:whoscored.com
イウォビが、ドリブル成功数3回、キーパス数4回という数字を残し、何度も左サイドを崩す活躍を見せた。
ボールをキープでき、ドリブルの巧みさもあり、ダイレクトのパスワークもできるイウォビであるが、器用がゆえにプレーの判断を誤ってバランスを崩すような試合もこれまではあった。しかし、ここ最近は徐々にバランスが取れて、的確なプレー判断で器用さを活かすことができるようになっているのではないだろうか。
イウォビが左サイドを突破できることで、中でオーバメヤンとウェルベックが待つ形がより一層効果的となった。
PickUpData:ボランチのポジショニング
ボランチのプレーエリア(ヴォルスクラ戦)
引用:sofascore.com
【参考】ボランチのプレーエリア(ニューカッスル戦)
引用:sofascore.com
リーグ戦では、ジャカ+ゲンドゥージ(トレイラ)が継続されており、この試合ではエルネニー+トレイラ(ゲンドゥージ)というコンビに変わったもの、チームとして左サイドを起点とするやり方は変わらなかった。
左ボランチに入ったエルネニーが左サイドタッチライン寄りにポジショニングを取り、トレイラは右ハーフスペースから中央あたりにポジショニングし、左に偏ったポジショニングでビルドアップする形が意図されていた。
ジャカとエルネニーで利き足の違いはあれど、リーグ戦のニューカッスル戦のジャカのヒートマップと比べても、かなり似ていることがわかるだろう。
また、後半途中からトレイラに代わりゲンドゥージが入ると、チーム全体として攻守において若干バランスが崩れた印象を受けたが、実際にプレーエリアを見ると、やはりゲンドゥージはトレイラよりも左右に幅広く動いていることを表すデータとなった。
とんとんさん(@sabaku1132)のブログで解説されていたが、ゲンドゥージはボールホルダーに寄り、小さなエリアで数的優位を作り出すプレーが特徴である。
その特徴自体はなんらマイナスのものではないし、ボールを受ける時の体の向きの上手さや精度の高いロングパスは間違いなくストロングポイントである。しかし、チームとして左サイド偏重でビルドアップするスタイルを取っている中で、右ボランチで起用されているゲンドゥージのプレースタイルはフィットしていると言えるのだろうか。
これだけ数試合続けて同じようなプレースタイルやパフォーマンスになっているため、エメリが気付いていないわけはないと思うが、ゲンドゥージの成長に期待して継続起用しているのか、トレイラとゲンドゥージを途中で変えることで意図的に試合の中で攻め方を変えようとしているのか、今後も注目してチェックしていきたい。
3人の見事な動きが生み出した先制点のカウンター
⚽アーセナルのカウンター⚽
ボール奪取時、局面は3対4。
体の向きは左サイド突破が自然であったが、クイッと方向転換し中央をドリブル。
それにより大外のDFが中に絞ったためイウォビへのパス。
オーバメヤンが中央から右に開き直してフィニッシュ。
外から外へつないで、戻るDF3人を無力化。 pic.twitter.com/kogZwZS4PX
— polestar@I love パス&ムーブ (@lovefootball216) 2018年9月22日
ムヒタリアンが左サイドに寄ってイウォビとパス交換するような局面になっていれば、DFが整いだし、ゴールの確率の高いシュートまでつなげられる可能性は低かっただろう。ムヒタリアンが1人目を交わしたあとに、クイッと中央に方向転換してドリブルしたことで、大外のDFが体の向きと視線を中にしたために、そのタイミングを使ってイウォビにいい位置でパスを渡すことができた。
オーバメヤンも中央から右に開き直したことで、DFよりもかなり後方から再び走りこむ状況となったものの、さすがのスピードで最後はイウォビのパスに追いつき、しかもダイレクトでゴールの枠を捉えた。
オーバメヤンのスピードを予測して早めのタイミングでスペースに速いパスを出したイウォビの判断もベストであったと言えるだろう。
精度の高いミドルレンジのパスも出せるトレイラ
これまでのリーグ戦の途中出場では、コンビを組んだのがジャカやゲンドゥージであり、ロングパスが長所である選手たちであったため、トレイラはよりテンポの良いショートパスを心がけていたように思えるが、本来はミドルレンジの精度の高いパスを出せる選手である。
この試合でコンビを組んだのがショートパスの多いエルネニーであるため、トレイラは持ち味の1つである精度の高いミドルレンジのパスを披露した。
⚽トレイラの精度の高いミドルレンジのパス⚽
~その1~ジャカやゲンドゥージに負けず劣らず、実はミドルレンジの正確なパスも出せるトレイラ。
トレイラのミドルレンジのパスが盛り沢山の30秒間をどうぞ(笑) pic.twitter.com/QR8tqol33n
— polestar@I love パス&ムーブ (@lovefootball216) 2018年9月22日
⚽トレイラの精度の高いミドルレンジのパス⚽
~その2~まるでジャカの右ver pic.twitter.com/LhkG3uQPFl
— polestar@I love パス&ムーブ (@lovefootball216) 2018年9月22日
バランス感覚に優れ、攻守において的確なポジショニングを取り、タックルでボール奪取もでき、攻撃ではショートパスもミドルパスも使い分けることのできるトレイラは、コンビを組むボランチが誰であろうと、攻守において安定したパフォーマンスを発揮できる選手であるだろう。
大幅なターンオーバーをせずに戦い続けるのか注目
ヨーロッパリーグを得意とするエメリであるが、プレミアリーグとヨーロッパリーグの両立は当然ながら初めての経験となる。
同じグループの対戦チームのレベルを踏まえると、もう少し若手を起用しても十分に戦えるのではないかと思えるものの、個人能力として問題ないとしても、大幅なターンオーバーはチームの機能性として大きなマイナスとなる可能性があり、その点を懸念して大幅なターンオーバーを控えているのだろうか。
しかし、リーグ戦とヨーロッパリーグで主力を起用し続ければ間違いなく疲労や怪我は発生しやすくなり、より深刻なマイナスとなる危険性があるだろう。
特にアウェーでの試合では、遠征による疲労も発生することから、大幅なターンオーバーを否定しているエメリであるが、今後のELの試合でどのような采配を見せるか注目したい。
アーセナルのヨーロッパリーグ展望はこちら