「絶対に縦パス通したいマン」と「左サイド奥を狙うマン」。横浜FM 対 川崎F レビュー【2019 J1 第3節】
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試合結果、スタメン、フォーメーション
2019/03/10 J1 第3節
横浜FM 2-2 川崎F
4分 ダミアン
23分 マルコス・ジュニオール
88分 ダミアン
95分 扇原
フロンターレは、ACLでのアウェイから中3日というコンディションの中、憲剛と小林をベンチスタートとし、ダミアンと知念を2トップとする4-4-2を採用。ACLで負傷交代した馬渡は回復してスタメン出場。大島がスタメン予定であったものの、試合前のウォーミングアップで負傷して急遽田中がスタメンに。
マリノスは、三好がローン移籍の制約で出場不可。代わりにIHには大津が入った。また、左SBはティーラトン。ミッドウィークのルヴァンカップでは大幅なターンオーバーを行ったため、コンディションではマリノス有利。
試合経過と両チームの狙い
「絶対縦パス通したいマン」の失敗と「左サイド奥を狙うマン」による着実な攻撃
ボール保持が特徴的な両チームの対決となる中、お互いに守備ラインを高く設定してコンパクトな陣形を取り、序盤からミドルゾーンを中心にインテンシティの高い試合に。
するとキックオフ後わずか3分、飯倉からの縦パスがずれたところを田中がカットし、そのまま素早くスルーパス。これをダミアンが冷静に決めて、フロンターレが早々に先制!
アグレッシブなプレーが特徴のGK飯倉とアンカーの喜田の連携が合わず、結果的にそのまま失点に。
このあと、「絶対に縦パス通したいマン」飯倉と「絶対に縦パス潰したいマン」田中の攻防がこの試合の1つのポイントに。
マリノスの攻撃とフロンターレの守備
両チームのフォーメーションの噛み合わせ上、4-4-2で守るフロンターレに対してフリーになりやすくなるのがアンカーの喜田。
マリノスの自陣深くからのビルドアップでは、フロンターレは全体を押し上げて2トップが積極的に前に出てCBをハメようとし、アンカーの喜田に対しては主に田中が前に出て捕まえようとする。
ミドルゾーンまで来ると、フロンターレの2トップは縦関係になり、2トップの1枚が喜田をケアするように。
マリノスは、喜田がCB間に下りたり、SBが内側に寄せて「偽SB」のプレーをすることでフロンターレの守備を乱そうとし、対するフロンターレは相手の立ち位置に応じて2トップが縦関係と横関係を使い分け、ボランチも前に出るときと出ないときを使い分けて対応していた。
また、マリノスは左サイドのマルコスと天野の連動によって、左サイド奥のスペースを突く攻撃を徐々に見せるように。
マリノスの攻撃
- 【定位置攻撃】 喜田がCB間に下りたり「偽SB」により工夫して前進
- 【ポジトラ(ボール奪取時)】 ボールをキープして組み立て直す
フロンターレの守備
- 【守備ブロック】 4-4-2(4-4-1-1) ライン高め 2トップが縦関係と横関係を使い分け
- 【ネガトラ(ボールロスト時)】 密集してボール奪取を狙う
フロンターレの攻撃とマリノスの守備
フロンターレは憲剛と大島がいないため、攻撃でキーとなるのは家長。右サイドでスタートしつつも、左サイドや中央に流れてアクセントを付けてマリノスを揺さぶる。また、田中が積極的に前に出てボールに絡む。
マリノスは4-1-4-1でラインを高くしてコンパクトな陣形を取り、中央からの前進を防ぐとともに早めのプレッシャーで自由にボールを回させない狙い。
フロンターレはボールを保持することに固執せず、ボールを回して揺さぶりつつも、マリノスの高いラインの裏のスペースを狙った長いパスを織り交ぜながら攻略の糸口を探っていった。
フロンターレの攻撃
- 【定位置攻撃】 家長が自由に動いてキープしてアクセントに
- 【ポジトラ(ボール奪取時)】 マリノスのCB裏のスペースを早めに狙う
マリノスの守備
- 【守備ブロック】 4-1-4-1 ライン高め
- 【ネガトラ(ボールロスト時)】 密集してボール奪取を狙う
どちらかと言うとフロンターレが優勢に進めていた中、次に試合が動いたのは23分。ソンリョンから前線へのロングボールを広瀬が跳ね返すと、そのまま右サイドを突破して最後は仲川がゴールラインぎりぎりで中へ折り返すと、そのまま抜けたボールがマルコス・ジュニオールに渡ってゴールネットを揺らす。マリノスが同点に追い付く。
その後は一進一退となり、お互いに大きなチャンスは無いまま、前半を1-1で折り返した。
前半のスタッツ
前半のスタッツ(左:横浜FM、右:川崎F)
引用:SofaScore.com
フロンターレはボール支配率とパス本数でマリノスを上回ったものの、パスはわずか246本とかなり少なめ。さらに、そのうちの1割強である26本がロングボールであり、約70%のロングボールを成功させた。マリノスのハイラインの裏を突く狙いを実行したと言えるだろう。
また、守備ではお互いにアグレッシブなプレーを見せたが、フロンターレがデュエル勝利数とタックル成功数で大きく上回った。
「絶対に縦パス通したいマン」の反撃
フロンターレの守備を崩しきれないマリノスは、ハーフタイムに喝を入れられたのか、「絶対に縦パス通したいマン」飯倉が後半はより積極的に縦パスを狙うように。ミスを恐れずに喜田やIHへの縦パスをチャレンジし、前進するきっかけを作っていく。
「絶対に縦パス潰したいマン」田中も喜田を常に意識するものの、徐々に疲労で寄せが遅れたり、マッチアップしても駆け引きで喜田にかわされるなど、前進を許しがちになる。
マリノスがペースを握りつつも大きなチャンスはほとんど生まれず。
66分:【川崎F】家長 → 小林
68分:【川崎F】登里 → 長谷川
フロンターレは両SHを続けて交代。小林はそのまま右サイドに入るもののゴール前では中央に入り、FW3枚で勝ち越しを目指す。
75分:【横浜FM】大津 → 扇原
マリノスは扇原と喜田を横並びにし、中盤を逆三角形から三角形に変更。これによりビルドアップ時に後方で数的優位ができやすく、ビルドアップを安定させる狙い。
この変更により、フロンターレの前からのプレスが効かなくなり、マリノスがフロンターレ陣内に押し込む時間帯が増えることに。
しかしフロンターレも、前掛かりになるマリノスに対して、カウンターでFW3枚+長谷川を活かしてチャンスを伺い、勝ち越しを狙う。
80分:【川崎F】守田 → 中村
82分:【横浜FM】マルコス → 遠藤
迎えた87分、何度か左サイドを突破していた長谷川が早めに右足に持ち替えてアーリークロスを上げると、FW3枚が詰めたゴール前で小林のヘディングの折り返しをダミアンが押し込み、フロンターレが勝ち越しに成功。
92分:【横浜FM】ティーラトン → 李
リードしているものの疲労が目立つフロンターレに対してアグレッシブに攻め続けるマリノスは94分、ラストチャンスで得た左CKに途中出場の扇原がヘディングで合わせて劇的な同点弾。
マリノスが最後にホームの意地を見せ、神奈川ダービーは2-2の引き分けに終わった。
後半のスタッツ
後半のスタッツ(左:横浜FM、右:川崎F)
引用:SofaScore.com
終盤にマリノスが押し込む時間帯が増えたこともあり、ボール支配率やパス本数はマリノスが大きく上回る結果に。フロンターレはパスがわずか177本という珍しい少なさ。また疲労の影響も大きく、後半はマリノスがデュエルとタックルでフロンターレを大きく上回った。
しかし、それでもフロンターレはマリノスと同じシュート数であり、枠内シュート数、ビッグチャンス数ではマリノスを上回った。
【PickUpData】フロンターレの”大人の戦い方”
試合の流れ
インテンシティの高い好ゲームとなり、お互いにアグレッシブなプレーと采配を見せてそれぞれ優勢な時間帯を作った。
フロンターレはマリノスとのコンディションの差も踏まえて、スタメンの変更とフォーメーション変更、状況に応じた戦い方をしたと言える。マリノスもシステム変更で流れを手繰り寄せ、フロンターレの疲労を突いて攻め続けた結果の勝ち点1と言える。
マッチスタッツ(左:横浜FM、右:川崎F)
引用:SofaScore.com
終わってみれば、マリノスがボール支配率、パス本数、パス成功率で上回るというフロンターレとしては珍しいスタッツに。しかし、それでもフロンターレはシュート数、枠内シュート数、ビッグチャンス数で上回っており、コンディションの差や相手の戦い方を踏まえた上での”大人の戦い方”をしたと言えるのではないだろうか。
【POINT①】「絶対に縦パス通したいマン」vs「絶対に縦パス潰したいマン」の結果
フォーメーションの噛み合わせのギャップを活かしてアンカーの喜田を1つの起点にしたかったマリノスとそれを許したくなかったフロンターレ。
「絶対に縦パス通したいマン」vs「絶対に縦パス潰したいマン」の結果は以下のように。
(マリノス目線。選手名は縦パスの受け手。出し手はすべて飯倉。)
前半
【3分】 喜田 ✕ ※パスずれる→川崎F1点目(田中アシスト)
【37分】大津 ○ ※フリー
後半
【45分】喜田 ○ ※田中を交わして前進
【51分】喜田 ○ ※フリーで受けて前進
【53分】天野 ✕ ※守田がパスカット
【56分】喜田 ○ ※田中を交わして前進
【67分】大津 ✕ ※田中がパスカット
【68分】ティーラトン ○ ※フリー
【86分】扇原 ○ ※フリー
同点に追い付いたこともプラスに作用したのか、後半はよりアグレッシブに縦パスにチャレンジした飯倉。そして喜田も田中の位置を確認し、ボールを受けるタイミングでうまく交わす場面を増やしていき、前半以上に中央からの前進を機能させていった。
マリノスが後半に修正して機能させていったポイントは、DFラインでビルドアップしている場面で縦パスを狙うのではなく、フロンターレの攻撃が飯倉のキャッチで終わった場面で素早く縦パスを入れてフロンターレの前線の選手たちを置き去りにすること。
この縦パスがゴールに繋がったシーンは無いものの、たびたびこれを繰り出すことにより、フロンターレの前線が急いで戻って守備せざるを得ない状況を作ったり、田中の上下動の動きを強いることで、終盤にフロンターレの足が止まりがちな状況を作り出したとも言えるだろう。
【POINT②】「左サイド奥を狙うマン」対決
フロンターレが左サイド奥を狙う形
フロンターレはビルドアップ時に左サイド奥のスペースへの浮き球パスを積極的に狙った。
マリノスは4-1-4-1で全体のラインが高いために最終ライン裏にスペースがあり、右SB広瀬がマークに付く登里はハーフスペースでボールを受けるのがうまく、登里が広瀬を内側に引っ張れば左サイド奥のスペースが空きやすくなっていた。さらに、4-1-4-1の構造上、アンカーの喜田の脇が狙われやすくなるために、広瀬はそこをケアする意識が強かったのかもしれない。
そして、フロンターレは右サイドで家長のキープを活かしてマリノスの陣形を寄せてから左サイドへの浮き球パスを狙うことで、より効果的なプレーとすることに成功していた。
- 右サイドで密集してボールを回してマリノスの守備を寄せる
- 登里が内側に絞って広瀬を引っ張り、車屋が大外から裏に飛び出す
狙いがひたすら左サイドであったのは、左サイドの登里と車屋がどちらもSBができる選手であるために前後を入れ替えてもプレーできる柔軟性があり、状況に応じてどちらかが裏に走る変化を付けられるのと、2人とも左利きであるため、突破した後にそのままスムーズにクロスを上げやすいからであると考えられる。
家長を活かして右で作り、左サイドの2人を活かして左奥を突破し、そこからのクロスに高さと強さのある2トップが合わせるという形は、この試合の大きな狙いの1つであったと考えられる。
そしてその結果は以下のように。
前半
【1分】守田→ダミアン ○
【15分】守田→家長 ○
【31分】谷口→登里 ○
【32分】谷口→車屋 △(オフサイド)
【37分】家長→登里 ○
【39分】奈良→登里 ○
【44分】登里→車屋 ○
後半
【71分】奈良→長谷川(知念) ✕
【85分】谷口→長谷川 ○ ※チャンス
前半だけで7回も左サイド奥への浮き球パスを狙い、ほぼすべて成功。マリノスの選手が競り合うこともほぼ無く通すことに成功した。直接チャンスにつながっているシーンはないものの、ゴール前まで運ぶための1つの形として機能していたと言える。
しかし、前半の内容を踏まえてさすがにマリノスが対応を修正したのか、後半はわずか2本のみに。登里が長谷川に変わってシンプルに外に開く場面が増えたことや、車屋の運動量が落ちてオーバーラップが減ったことも影響しているだろう。
マリノスが左サイド奥を狙う形
マリノスも同様にフロンターレの左サイド奥のスペースを狙うためのデザインされた崩しの形を見せていた。
マリノスのデザインされた左サイド奥の崩しの形
- 左SBのティーラトンが内側に絞る
- WGのマルコスがサイドライン際手前でボールを受けようとする
- 守備側のSB(馬渡)が空けたスペースにIHの天野が走り込む
この形だけでなく、フロンターレの攻撃時にSBが高い位置を取ることはわかりきっており、馬渡が上がった裏のスペースに素早くボールを入れて速攻を狙うプレーも見せていた。
前半
【19分】畠中→天野 ○ ※チャンス
【40分】畠中→天野 ○
【45分】ティーラトン→マルコス ○
後半
【59分】ティーラトン→天野 ○ ※チャンス
狙った回数は多くなかったものの、天野がフリーで左サイド奥に抜け出してゴール前でチャンスになるシーンを2回作ることに成功しており、最終局面での精度が高ければゴールに繋がっていた形と言えるだろう。
突然のスタメンで期待に答えた田中碧
昨シーズン終盤に出場機会を得る中でアピールし続けてきた田中碧。急遽スタメン出場となったものの、先制点のアシストとなるプレーを見せるだけでなく、運動量豊富なプレーで攻守に貢献。フロンターレユース育ちらしく、正確なボールコントロールで狭いスペースでのパス交換にも難なく対応。特に前半は積極的に前線に絡むプレーも見せた。後半は喜田にかわされる場面が増えたものの、そもそも田中碧の運動量が無ければこの守備をやり続けることは不可能だったと言えるだろう。下田や新戦力の山村がいる中でボランチの3番手を掴んでいる状況にふさわしいプレーを見せ、今後どれだけ成長して大島や守田のポジションを脅かす存在になれるか楽しみである。
これでリーグ戦3戦連続ドローとなったフロンターレであるが、内容は上向きつつあり、メンバーを変えても一定のパフォーマンスができたことはプラスだろう。翌週のACLとリーグのG大阪戦でしっかりと結果を出せれば、アウェイの神奈川ダービーで掴んだ引き分けの意味も変わってくるのではないだろうか。
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