”我慢”のフロンターレと”徹底”した鹿島。川崎F 対 鹿島 レビュー【2019 J1 第2節】
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試合結果、スタメン、フォーメーション
2019/03/01 J1 第2節
川崎F 1-1 鹿島
9分 中村
21分 伊藤
開幕戦をスコアレスドローで引き分けたフロンターレと大分に敗れた鹿島。初勝利を掴みたい強豪同士のビッグマッチが第2節で早くも実現。
フロンターレは、ゼロックススーパーカップとリーグ開幕戦を同じスタメンで戦ったが、この試合では右SBにマギーニョではなく馬渡をスタメン起用。また、山村が初のベンチ入り。
一方の鹿島は怪我人が続出しており、鈴木、スンヒョン、山本らを欠く中でこの一戦に臨んだ。
前節の振り返りはこちら
準備してきたFC東京と対応力を見せたフロンターレ。川崎F 対 FC東京 レビュー【2019 J1 第1節】
試合経過と両チームの狙い
【前半開始~26分】お互いにゴールをもぎ取る
序盤からフロンターレがボールを握り、鹿島が4-4-2ブロックで守りを堅める展開に。
すると8分、ゴール前のフリーキックで早くも試合は動く。PA手前やや左のフリーキックで憲剛が直接狙うと、ボールは壁の頭上を越えてキレイにゴール左に決まる。クォン・スンテは一歩も動けず。フロンターレが早くも先制!
フロンターレの攻撃と鹿島の守備
フロンターレにとっては、前節のFC東京戦と同じく対4-4-2の攻撃。基本的に形は変わらず、右SBの馬渡が常に高い位置を取って幅を取り、左で前進を伺いつつも右のスペースからの攻撃も狙う形。
後方では主に守田がCBの間や脇に下りて3枚にして数的優位を作り、鹿島の2トップの裏に大島や憲剛(家長)がポジショニングを取り、3+2で鹿島の1stプレスライン(2トップ)を突破する。人や位置取りは流動的に変わるものの、基本的な原則としては3+2を作って2トップ脇に前進すること。前進に成功したら、高い位置を取るSBを絡めてファイナルサードに進入する。
鹿島は始めはミドルゾーンにラインを設定するも、自陣内に押し込まれがちに。しかし、無理に前からボールを奪おうとせず、ブロックを維持して守ろうとする。押し込まれるとセルジーニョはプレスバックをわりと頑張り、伊藤は前線に残ってカウンターに備える形。
フロンターレの攻撃
- 【定位置攻撃】 後方での数的優位による前進から右サイドでの攻撃
- 【ポジトラ(ボール奪取時)】 ①速攻 ②繋いで遅攻
鹿島の守備
- 【守備ブロック】 ミドルゾーンで4-4-2ブロック
- 【ネガトラ(ボールロスト時)】 リトリート(撤退守備)
鹿島の攻撃とフロンターレの守備
鹿島としては、フロンターレの前からのプレッシングでのボール奪取によるショートカウンターの強みも認めた上で、後方から無理に繋いでボールを奪われるリスクを背負わず。
ボランチが下りて後方で余裕を持った数的優位を作ってボールを回しつつ、左サイドで安西が少し高めの位置を取り、安部と安西でワイドと内側に位置することでパスコースを2つ作ってどちらかから前進。前進したら2人の突破力を活かしてゴール前まで攻め込む形を見せた。
また、フロンターレからボールを奪った時には、前線に残る伊藤にロングボールを送ってキープさせるか、馬渡が上がった裏のスペース(鹿島の左サイド前方)にロングボールを送って伊藤かセルジーニョがスペースで勝負する形を再三狙った。
鹿島の攻撃
- 【定位置攻撃】 左サイドから前進。安部と安西の攻撃力を活かす
- 【ポジトラ(ボール奪取時)】 縦に早く。伊藤のキープ or 左サイド奥のスペース活用
フロンターレの守備
- 【守備ブロック】 ミドルゾーンで4-4-2ブロック
- 【ネガトラ(ボールロスト時)】 密集してボールを奪う
試合はその後もフロンターレが押し込む時間が多くなるも、迎えた20分、内田が思い切ってCB裏へのロングボール。いち早く抜け出した伊藤が見事なトラップののちにソンリョンの脇を抜けるシュートで見事にゴールネットを揺らす。鹿島がチャンスをものにして同点に追いつく。
22分には安部の際どいシュート、26分にはセットプレーから町田のヘディングでゴールネットを揺らすもオフサイドでゴールは認められないシーンなど、この時間帯は鹿島がチャンスを立て続けに作った。
【27分~前半終了】家長を右に移したフロンターレ
27分、フロンターレは家長と小林のポジションを入れ替え、家長が右、小林が左へ。そしてここから、より一層右サイドからの攻撃の割合が増える。
狙いとして考えられること
- 家長を慣れている右サイドでプレーさせる
- 内田よりも安西のサイドの狙う
- 鹿島のカウンター時の安部の攻撃参加を抑制
フロンターレのボール保持時に右SBの馬渡が常に高い位置にいるのは、右から攻めようが左から攻めようが変わらず。そして鹿島はその裏のスペースを当然のごとく狙い続けていた。
この変更により、攻撃面では、家長を慣れている右でプレーさせることでアクセントを付けたいのと、鹿島の両SBを比較した時に内田よりも安西の方が崩しやすいと考えたのかもしれない。
また、小林が右の場合は小林か馬渡のどちらかが縦(裏)を狙うパターンが多くなり単調に終わりやすいが、家長が右の場合はそこでボールをキープできるため、右奥で起点を作ってからの連携で崩そうとする形が多くなり、より深くまで鹿島を押し込むことができるようになる。
フロンターレが右サイドで押し込んでる状態で攻守が切り替わっても安部や安西はすぐにカウンターに参加できないため、鹿島のカウンターの威力を弱めたい狙いもあったのかもしれない。
試合はその後、変わらずフロンターレが右サイドを起点に押し込む時間が続く。車屋のバー直撃のミドルシュートや安部の際どいカットインシュートなどがあったものの、追加点は生まれずに1-1で前半を折り返す。
前半のスタッツ
前半のスタッツ(左:川崎F、右:鹿島)
引用:SofaScore.com
フロンターレはボール支配率73%でシュート12本。しかし、枠内シュートは3本のみで、ゴールも直接FK。
対する鹿島はボールを支配されながらも少ない機会をシュート7本に結びつけた。しかし、枠内シュートは伊藤のゴールの1本のみ。
【後半開始~67分】ダイレクトパスでテンポを上げるフロンターレ
後半に入っても小林が左、家長が右の形は変えず。しかし、徐々に左サイドや中央を使う場面を増やしていく。さらに、近い距離のサポートによってダイレクトパスを2,3個繋げるシーンを増やしていき、テンポを上げてゴール前に迫る場面を増やす。
しかし、鹿島の粘り強い守備を崩しきれずに追加点を奪えない。
【68~83分】慣れたメンバーで攻め込むフロンターレ
68分:【川崎F】ダミアン → 阿部
小林がトップに移り、阿部が左サイドに入る。
フロンターレは、ダミアンを下げたことで昨シーズンまでのお馴染みの顔ぶれに。阿部も流動的に動いてボールに多く絡むことでリズムを作り出したい狙い。
70分:【鹿島】安部 → 山口
左サイドの安部と安西がどちらもイエローカードをもらっていたため、それも考慮しての交代か。
フロンターレが押し込む流れは変わらないものの、スコアは動かず。
【84分~試合終了】攻撃的布陣で勝ち越しを狙うフロンターレ
84分:【鹿島】セルジーニョ → 金森
84分:【川崎F】馬渡、車屋 → 知念、登里フロンターレは守田を右SBとし、憲剛がボランチに移り、攻撃的布陣で勝ち越しを目指す。
迎えた92分、この試合の最大の決定機。家長のミドルシュートから一気に押し込むと、最後は憲剛がゴール目の前の知念への冷静なラストパス。これを知念がダイレクトで打つものの、クォン・スンテのビッグセーブに防がれる。
93分:【鹿島】伊藤 → 三竿
フロンターレの猛攻も実らず、そのまま1-1で引き分けに終わった。
後半のスタッツ
後半のスタッツ(左:川崎F、右:鹿島)
引用:SofaScore.com
前半と同じくフロンターレのボール支配率は後半も73%。攻め込んだ割にはシュートは8本のみで、枠内シュートは3本のみ。2回のビッグチャンスを決められず。また、押し込む代わりにボールロスト(Dispssessed)も9回あり、鹿島にカウンターを許す場面が前半以上に目立った。
鹿島はカウンターを何度か見せたものの、後半のシュートは2本のみに終わった。
【PickUpData】枠内シュート1本で引き分けをもぎ取った鹿島
試合の流れ
マッチスタッツ(左:川崎F、右:鹿島)
引用:SofaScore.com
最終的にフロンターレは20本のシュートを打ったものの、ゴールは憲剛の直接FKのみ。20本のシュートのうち半分の10本をPA内から打ったものの、鹿島の粘り強い守備に防がれる結果となった。
対する鹿島は試合を通じて枠内シュートは伊藤のゴールの1本のみであったものの、守りきって勝ち点1を獲得。
【PickUpData】実らなかった大島のアクセントと脅威になった内田のロングボール
両チームのパススタッツ
引用:SofaScore
フロンターレは憲剛がキーパス6本、大島がキーパス4本。大島のCB裏への浮き球パスやファイナルサードでのスルーパスは鹿島の最終ラインを崩すためのアクセントになったものの、残念ながらゴールには結びつかず。
対する鹿島は内田がキーパス3本で、アシストになったロングボールだけでなく、鋭いアーリークロスや正確なロングパスを何度も見せて脅威となっていた。
フロンターレの右サイド深くでの攻撃パターン【「3online」と「サイ」】
「3 on line」と「サイ」
フロンターレの右サイドからの攻撃で数回見られたのが3選手の絡みから生まれる「3 on line」と「サイ」の形。
- 3選手が一直線に並ぶ
- 真ん中の選手が直線上から抜けてサイドに流れる(サイ)
- マークが付いてくる ⇒中へのパスコースが空く
マークが付いてこない ⇒サイドでフリーになる
「3 on line」と「サイ」の詳しい解説は、とんとんさんのこちらの記事で。
この試合でのフロンターレの「3 on line」と「サイ」
・【4分】馬渡-小林(サイ)-ダミアン
・【35分】馬渡-家長(サイ)-ダミアン
・【54分】馬渡-家長(サイ)-ダミアン
・【59分】馬渡-家長(サイ)-憲剛 ※
※さらに憲剛→家長→憲剛(ヘディング)で決定機
しかし、ダミアンにパスが通っても孤立しており、レオ・シルバの寄せの早さなどもあってその後の攻撃に繋がらず。パスが出たあとに周りの選手がもっと近くに寄ってサポートするのかサイドにもう一度戻すのかなど、イメージが合っていなかったのかもしれない。また、出し手がパスを出したあとにダミアンに寄って、脇を走り抜けるような動きを狙ってもよかったかもしれない。
”我慢”のフロンターレと”徹底”した鹿島
ゼロックススーパーカップを含めるとこれで3試合連続でスタメン出場したダミアン。しかし、リーグ戦のこの2試合ではあまりダミアンを活かせているとは言えず。トップにダミアンがいることで鹿島のDFラインの意識がそこにいくことは間違いなく、一定の効果はあると考えられるものの、最後の局面での連携についてはまだ時間がかかるのは仕方ないか。中期的に考えて勝ち点を積み重ねるために、今はフィットさせるために我慢して起用している時期であると考えられる。
ある意味それ以上に気になるのは、2枚目・3枚目の交代の遅さ。あまりにも小林、憲剛、家長に頼りすぎているように思え、代えられない絶対的な存在になってしまっている。選手層は明らかに厚くなっており、控え選手たちはベンチ入りすら厳しい競争になっているものの、ベンチに入っても起用時間が少ないのであればレギュラー組と控え組の差が埋まらない状況が続いてしまう。今後の過密日程で選手起用がどう変わるのか、シーズン序盤の注目ポイントとなるだろう。
また、スタメン起用された馬渡は周りと比較的同じイメージを持ってプレーできているように見え、フロンターレらしい狭いスペースでのパスワークや縦パスなども苦にせず、ひとまずはマギーニョからスタメンを奪ったと言えるかもしれない。しかし、ダミアンが下がったあとでも早めにクロスを上げてしまうシーンがあったりし、周りとの連携はまだまだこれから向上させていく必要があるだろう。
ビルドアップで気になったのは、せっかく左で作って右にスペースを空けて馬渡を張らせているにも関わらず、後方からの対角線のロングパスが少ないこと。この試合での対角線のロングパスは「16分の奈良から車屋」と「27分の守田から馬渡」の2回のみ。いずれもパスが届く前に寄せられてスローインになっているものの、高い位置のスローインからリスタートできるという意味では前進に成功している。特に谷口はもっと対角線のロングパスを狙ってもいいのではないだろうか。
一方の鹿島は、守備ではお馴染みの4-4-2ブロックでフロンターレのパスワークによる攻撃を耐えしのぎ、攻撃ではショートカウンターのリスクを回避して無理に攻めることはせず、徹底して馬渡の裏のスペースを狙った速攻をやり続けた。また、遅攻でも、右は内田からの精度の高いアーリークロス、左は安部と安西のドリブル突破を活かす形を徹底。そして永木のセットプレーのキックの精度の高さも活かす。フロンターレのストロングポイントとウィークポイントを分析した上でのプランを徹底的にやり尽くした結果の勝ち点1と言えるだろう。これこそが鹿島の強さであると言える。
フロンターレはホームでの2連戦をいずれも引き分けで終える苦いスタートとなり、次はアウェイでの神奈川ダービー、そしてACLのグループステージも始まる。我慢しながらも勝ち点を積み重ねていけるだろうか。
前節の振り返りはこちら
準備してきたFC東京と対応力を見せたフロンターレ。川崎F 対 FC東京 レビュー【2019 J1 第1節】