”本物”であることを示したアーセナル。アーセナル 対 リバプール レビュー【2018/19プレミア第11節】
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試合結果とフォーメーション
2018/11/03 プレミアリーグ第11節
アーセナル 1-1 リバプール
61分 ミルナー
82分 ラカゼット
前半
アーセナルは、コラシナツとベジェリンが負傷から復帰しスタメン。ジャカは本来のボランチでスタメン。
リバプールは、ロヴレンとヘンダーソン、ケイタが欠場のため、CBにゴメス、中盤にはファビーニョを起用。
序盤からアーセナルが高い集中力を見せ、優勢に進める。惜しいチャンスを作るものの決められないでいると、リバプールも少ないチャンスとセットプレーで決定機を重ねて作る。しかし、両チームともにゴールを決められず、無得点ながらもアーセナル優位のまま前半を終えた。
アーセナルのビルドアップ(GKから)
アーセナルのGKからのビルドアップでは、リバプールは前線3人が高い位置でプレッシャーをかけてくる。
これに対してアーセナルは、両CBを開きつつ(観音開き)、ボランチ2人はリバプールの前線3人の間に位置して5対3の状況を作る。さらに、両SBは大きくサイドに開き、前線ではオーバメヤンが中に絞ることで、ラカゼットとともにロングボールに備える。
これにより、レノとしては4つの選択肢を持つことができる。
①リバプールの3TOP間に位置するボランチにショートパス
②リバプールの3TOPと中盤の間のスペースへロブパス
③サイドに開いたSBへのロブパス
④前線のオーバメヤンとラカゼットへのロングパス
特に①②③は高いキック精度が求められるものの、レノは落ち着いて状況に応じて使い分けることで、ボールを前進させることに成功していた。
アーセナルのビルドアップ(CBから)※前半
アーセナルのCBからのビルドアップでも、リバプールは同様に3トップでプレッシャーをかけてくる。さらに、両ワイドのサラーとマネは、SBへのパスコースを消しつつCBにプレッシャーをかけてくることが特徴である。
これに対してアーセナルは、ジャカとトレイラ含めて4対3の状況を作り、CBが比較的余裕をもってボールを保持できる状況を作る。さらに、両SBはワイドに目いっぱい開き、エジルとムヒタリアンはハーフスペースで縦パスを受けようとし、オーバメヤンは少し中に絞りつつ左サイド奥のスペースへの飛び出しを意識する。
これにより、オーバメヤンの飛び出しを警戒するアーノルドはピン留めされ、ワイナルドゥムもエジルへの縦パスを警戒してピン留めされ、サラーはジャカのフリーでの前進を警戒するためにコラシナツに強くマークにつくことはできず、コラシナツがフリーの場面をアーセナルは作り出していた。
この状況で、ジャカやトレイラが前後に出入りしながらCBとパスを回し、最終的にはワイドに開いたコラシナツへロブパス(浮かせたパス)を送ることでリバプールの1stプレッシャーラインを突破するシーンを何度も見せていた。
これを嫌がってリバプールの選手が寄せてきた場合は、エジルが空いてハーフスペースでボールを受けたり、ジャカやホールディングから右サイドのベジェリンへの大きなサイドチェンジをしたりして、回避していた。
リバプールのビルドアップ
アーセナルは守備時は4-4-2で、ラカゼットとエジルがCBにプレッシャーをかける。アーセナルとしてはサラーにボールを入れられたくないため、右SBのアーノルドへオーバメヤンが強めにプレッシャーをかけ、なるべく左SBのロバートソンのほうへパスを誘導した。
ロバートソンへパスが入ったら、中盤へのパスコースを消すことで、前方へのロングパスを選択させる。前方ではフィルミーノとマネがムスタフィとベジェリンと2対2でハイボールを競るものの、トレイラ含めてセカンドボールを回収し、アーセナルはリバプールの前線の起点を防いだ。
しかし、リバプールの精度の高い斜めのロングパスなどで数回サラーにボールが渡り、ゴール前に迫られる場面もあった。
前半のスタッツ
前半のスタッツ(左:アーセナル、右:リバプール)
引用:SofaScore.com
両チームともに、ビッグチャンスを2回ずつ作るもののゴールを奪えず。リバプールはポストに2回弾かれ、際どいオフサイドの判定でノーゴールとなるシーンもあった。
インテンシティーの高いプレーを見せたアーセナルは、デュエル勝利数やタックル成功数でリバプールを上回った。
後半開始~79分
ジャカやコラシナツをフリーにしてチャンスを作られていたリバプールは、後半開始にフォーメーションと立ち位置を変更してこれに対応。4-2-3-1に変更し、サラーを1トップ、フィルミーノをトップ下にし、ミルナーを右に移す。
アーセナルのビルドアップ(CBから)※後半
フォーメーションを変更したリバプールは、守備時は4-4-1-1の配置とした。これにより、アーセナルの両SBへのマークをミルナーとマネで明確にして、特にコラシナツをフリーにさせないようにする。
一方で、アーセナルの2CB+2ボランチとの4対2の状況ができてしまうものの、サラーとフィルミーノは横並びではなく縦関係でコースを制限。アーセナルに対してUの字(図中のオレンジ線)のパスコースのみ許すことで、前半にフリーにしていたジャカへのパスのタイミングをわかりやすくし、ミルナーが運動量を活かしてコラシナツを警戒しつつもジャカにも即座にプレッシャーをかけられる状況を作り出した。これが機能し、アーセナルは前半ほどジャカやコラシナツがフリーでボールを持てなくなり、効果的な前進ができなくなる。
80分~93分
リバプールは80分に、フィルミーノに代えてシャキリを投入。ポジションはそのままトップ下に入る。
アーセナルは81分に、コラシナツに代えてウェルベックを投入。ウェルベックを2列目左にし、2列目左を務めていたイウォビを左SBにするという奇策を見せる。
アーセナルの同点ゴールの流れ
引用:アーセナル公式
ボールをキープできて仕掛けることができるイウォビを左SBにおいたことが効いて生まれた同点ゴール。
両サイドに幅広く展開してリバプールのDFを揺さぶりつつ、最後はDFの隙間をうまく突いたスルーパスをイウォビが出すと、抜け出したラカゼットが厳しい体勢ながらも回転しながらのシュートをゴールネットに突き刺した。
94分~
残り時間わずかとなる中、リバプールは94分にサラーに代えてマティプを投入。シャキリを1トップに上げ、マティプはアンカーに入り、4-1-4-1に変更して守備を固める。
試合はそのまま終了し、1-1の引き分けに終わる。
後半のスタッツ
後半のみのスタッツ
(左:アーセナル、右:リバプール)
引用:SofaScore.com
両チームともにゴールが生まれたものの、シュート数はアーセナル3本とリバプール6本のみ。ビッグチャンス数は共に0回であり、数少ないチャンスを共に1回ずつゴールに結びつけた。
フォーメーションを変更して巻き返したリバプールは、後半はデュエル勝利数とタックル成功数でアーセナルを上回った。
【PickUpData】得意の左サイドを起点にできたアーセナル
平均ポジション(左:アーセナル)
引用:whoscored.com
(リバプールは前後半でフォーメーションを変更したため省略)
アーセナルのビルドアップの形を忠実に表すかのような平均ポジション。2CBと2ボランチが2-2の関係を作りつつ、両SBがワイドに開いて少し高めの位置を取り、エジルとムヒタリアンはハーフスペースに位置し、ラカゼットとオーバメヤンが少し左寄りでトップに位置している。
試合全体を通して、狙った形を継続したことが表れている。
攻撃サイド(左:アーセナル、右:リバプール)
引用:whoscored.com
ヒートマップ(左:アーセナル、右:リバプール)
引用:whoscored.com
アーセナルは、ジャカとコラシナツを起点にしていたことが、攻撃サイドとヒートマップにも表れている。リバプールは、右サイドの奥のスペースとバイタルエリアをほとんど使えていなかった。
【PickUpData】攻守に躍動したジャカとトレイラ
アーセナルのパススタッツ
引用:whoscored.com
ジャカが印象通りにチームトップの97本のパス成功数。さらに、ジャカ、ホールディング、ムスタフィ、トレイラの4選手がいずれも多くのロングボールを成功させており(AccLB)、ビルドアップでリバプールの3トップのプレッシャーをうまく回避していたことが表れている。
MFの守備(タックル、インターセプト、リカバリー)
白塗り:アーセナル(ジャカ、トレイラ)
黒塗り:リバプール(MF3選手)
引用:アーセナル公式
中盤でジャカやトレイラが何度もボール奪取したりセカンドボールを回収したりするシーンが目立ったこの試合。リバプールの中盤3選手のプレー(黒塗り)と比較すると一目瞭然であり、中盤で完全に主導権を握っていたことを表してる。
【PickUpData】少ないながらも効果的なプレーを見せたサラー
リバプールの攻撃スタッツ
引用:whoscored.com
決してプレー機会は多くなかったサラーであるが、スタッツを見ると、シュート3本、キーパス4本、ドリブル成功数4回を記録しており、少ないプレーの中でもアーセナルに脅威を与えていたことがわかる。
さらに、ゴールを決めたミルナーは守備での貢献はもちろんのこと、キーパス数も3本を記録しており、MOM級の活躍を見せた。
【PickUpData】ゴール期待値で上回ったリバプール
Arsenal vs Liverpool xG, draw is fair in the end. pic.twitter.com/0VRhvLy2Jg
— Scott Willis (@oh_that_crab) 2018年11月3日
ゴール期待値は、無得点に終わった前半に両チームともに1.5点ほどであり、1ゴールずつあげた後半はお互い伸び悩んでいる。
特にアーセナルは後半、リバプールのフォーメーション変更に対応できず、ほとんどゴール期待値につながるプレーをできないながらも1点を奪って引き分けに持ち込んだ。
新監督の戦術的力量を見せたアーセナルと修正力を見せたリバプール
リバプールの前線からのプレッシャーに苦戦するチームが多い中、アーセナルは見事なビルドアップで前半を大きく優勢に進めた。エメリが着実にチームに仕込んできたことがこのビッグマッチで発揮されたと言えるだろう。
しかしながら、リバプールも少ないチャンスでゴールを脅かす力はさすがであり、オフサイド含めて3回の決定機を前半に作った。さらに、ジャカとコラシナツを自由にプレーさせていた前半に対して、ハーフタイムでフォーメーション変更することで、後半は同じ形をほとんど封じ込めることに成功。クロップの修正力も見事であると言わざるを得ない。
アーセナルはタイトルレースに付いていける可能性を見せられたか
ほぼベストメンバー同士の対戦の中で、アーセナルはリバプールと互角とも言える内容を見せた。ホームで勝ちたかったとはいえ、リバプールに3回の決定機があり、ポストに2回弾かれたことを考えれば、引き分けは十分な結果と言えるだろう。
これで14試合無敗を継続させ、内容的にもビッグクラブ相手でも十分に戦えることを示したはずである。他のライバルたちがCLと並行して戦う中、アーセナルはELがあるとはいえほぼグループステージ突破を決めている状況であり、有利な状況とも言えるだろう。
12月には、トッテナム、マンチェスター・ユナイテッド、再びリバプールとの対戦が控えており、冬の折り返しの時点でどこまでタイトルレースに食らいついていける注目であるが、この試合を見れば、グーナーは期待せざるを得ないだろう。
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