「No.9」の明暗と攻守に機能したエジルとラムジーの共存。アーセナル 対 マンチェスター・ユナイテッド レビュー【2018/19プレミア第30節】
Contents
試合結果、スタメン、フォーメーション
2019/03/10 プレミアリーグ第30節
アーセナル 2-0 マンチェスター・ユナイテッド
12分 ジャカ
69分 オーバメヤン(PK)
前節にトッテナム相手にあと一歩で勝利を逃し、EL・レンヌ戦ではパパスタソプーロス退場から逆転され、徐々にネガティブな雰囲気になりつつあるアーセナル。トレイラが出場停止の中、ラムジーをボランチで起用し、トップ下のエジルとともに共存させる形に。
ユナイテッドは、CL・PSG戦を劇的な逆転で勝ち抜け、続出した怪我人も徐々に復帰しつつあり、ポジティブなムードでこの試合に臨む。
CL出場圏内争いにおいて重要な一戦。
前回対戦の振り返りはこちら
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試合経過と両チームの狙い
攻守にハマったエジル・ラムジー・ジャカの関係
序盤からインテンシティー高めで始まった試合は、ホームのアーセナル優勢で進む。
アーセナルの攻撃とユナイテッドの守備
アーセナルのビルドアップ時、ユナイテッドはそれほどラインを上げず、右WGのダロトが中盤に下がることで4-4-2ブロックを作る。フォーメーションが噛み合わないため、アーセナルは左右のCBからWBへのパスコースが空きやすく、そこを有効活用して前進。また、エジルがボランチ脇のスペースでのポジショニングを意識し続け、ラムジーも中盤のブロックの前後を行き来することで牽制したことにより、ジャカからエジルへのパスが通って一気にファイナルサードに進入する場面を増やしていった。
サイドからの前進を防ぎたいユナイテッドは徐々にSHが前に出てアーセナルの左右のCBにプレスをかけるようになり、状況によっては4-2-4のような状態になるが、アーセナルは冷静にレノにボールを戻して前線にロングボールを入れ、オーバメヤンとラカゼットが競り負けても中盤がセカンドボールを拾うことでチャンスを作っていった。
また、アーセナルのボール奪取時には、中央でマティッチが1人になりやすいため、エジルがその脇のスペースでボールを受けることで、一気にカウンターの起点となるシーンを作っていった。
アーセナルの攻撃
- 【定位置攻撃】 エジルがボランチ脇でボールを受けて起点
- 【ポジトラ(ボール奪取時)】 アンカー脇のエジルに早めに展開
ユナイテッドの守備
- 【守備ブロック】 4-4-2 自陣リトリート
- 【ネガトラ(ボールロスト時)】 ディレイして陣形回復
ユナイテッドの攻撃とアーセナルの守備
ユナイテッドのビルドアップ時、アーセナルはミドルゾーンで3-4-3となり、フォーメーションの噛み合わせを活かして前からプレス。中盤ではエジルがマティッチへのパスコースをケアし続け、ボールを受けようとするフレッジとポグバにはジャカとラムジーが前に出てチェック。エジルとラムジーの運動量や敏捷性の違いをうまく活かしたハメ方が機能し、ユナイテッドのビルドアップを苦しめた。
それでもユナイテッドは早めに前線にロングボールを入れると、ルカク、ラッシュフォード、ポグバの強さを活かしてゴール前まで運ぶ場面を作っていく。
ユナイテッドの攻撃
- 【定位置攻撃】 ルカク、ポグバのポスト・キープ力を早めに活かす
- 【ポジトラ(ボール奪取時)】 縦に早く展開
アーセナルの守備
- 【守備ブロック】 3-4-1-2 ミドルゾーン エジルがマティッチをケア、自陣では5-2-3
- 【ネガトラ(ボールロスト時)】 密集してボール奪取を狙う
試合は11分、PA手前やや右でラカゼットからパスを受けたジャカは、思い切ってミドルシュートを選択。強烈なシュートは無回転気味で変則的な軌道を描き、デ・ヘアの逆を突いた形となってゴールネットに吸い込まれる。アーセナルが早々に先制に成功。
その後、ビハインドとなったユナイテッドもゴール前まで迫るシーンを徐々に作っていく。
ユナイテッドの対応策と変わらないジャカ、エジル
攻守に機能しきれていないユナイテッドは26分頃、フォーメーションを3-5-2に変更。
システム変更後のユナイテッドの”攻撃の変化”
システム変更により噛み合わせが無くなったことで、後方で数的優位を作りつつWBから前進しやすくなったユナイテッド。2トップの一角がボールサイド側のCBを背負ってボールを受け、そこから裏のスペースを使ってゴール前まで進むシーンを両サイドともに同じようなパターンで作っていった。
システム変更後のユナイテッドの”守備の変化”
ユナイテッドは前からハメるのを諦め、5-3-2で後ろでしっかりと守りを堅めてから攻撃に転じる方針に変更。しかしアーセナルはサイドに振ることでユナイテッドの中盤3枚のスライドを促し、ジャカからの大きなサイドチェンジで空いたスペースを突く攻撃を機能させる。さらにエジルもスライドが遅れた中盤3枚の脇を継続して狙い続け、起点となっていった。
試合は、システム変更によりユナイテッドのボール保持が増えていくものの、アーセナルもボールも持てば縦に早い攻撃でゴール前まで迫るシーンを作っていく。
チャンスはあったもののユナイテッドは無得点に終わり、アーセナルが1-0でリードして前半を折り返す。
前半のスタッツ
前半のスタッツ(左:アーセナル、右:マンU)
引用:SofaScore.com
構造的にはアーセナルが有利に進めていったものの、ユナイテッドもファイナルサードでの一つ一つのプレーの質の高さを活かしてゴールに迫った。両チームともにシュート9本であったものの、枠内シュートは1本と2本のみ。ユナイテッドはビッグチャンスを3回作り、2本のシュートはバーとポストを直撃したものの、わずかに質が足らずにゴールを奪えず。
ゴールに繋がったラカゼットの積極性
後半、前半途中からの流れそのままに、ユナイテッドは後方での数的優位を活かしてアーセナルの1stプレスラインを突破し、アーセナルの5-2-3のボランチの脇をうまく使うことで一気にゴール前まで迫るシーンを増やしていく。さらに、右サイドのダロトも高めの位置を積極的に取るようになり、両サイドからの攻撃を増やしていく。
しかしアーセナルも、押し込んできたユナイテッドに対してカウンターでエジルがマティッチの脇を有効に使い、速攻でユナイテッドのゴール前までボールを運ぶシーンを作っていく。
両チームともにボランチの脇のスペースを突くことで、お互いのゴール前を行き来する激しい内容に。
そして、ゴールを手繰り寄せたのはアーセナル。67分、再三ゴール前で積極的に仕掛けるプレーを見せていたラカゼットがゴール右からPA内に強引に進入すると、倒されてPKを獲得。これを前節PKに失敗しているオーバメヤンが冷静に決めて、アーセナルが追加点!!
71分:【マンU】ダロト → マルシャル
2点のビハインドとなったユナイテッドはフォーメーションを4-3-3に戻し、ラッシュフォードが右、マルシャルが左に入って、前線のタレントを増やす。
しかし、アーセナルとしては試合序盤にハマっていた守備と同じ形で対応すればよい状況になり、あとは運動量次第。
77分:【アーセナル】エジル → イウォビ
リードを活かした采配と最後まで保ったアグレッシブさ
80分:【マンU】マティッチ → グリーンウッド
80分:【アーセナル】オーバメヤン → デニス・スアレス
2点のリードがあるアーセナルは5-4-1とし、使われていたボランチの脇を埋める。しかし、下がってゴール前で守るのではなく、ラインはそれほど下げずに陣形をコンパクトに保ちつつ、アグレッシブな守備を見せてユナイテッドに自由にプレーさせない狙い。
86分:【アーセナル】ラカゼット → エンケティア
アーセナルは最後まで集中力を持ってアグレッシブなプレーを見せ、見事にホームで2-0の勝利を掴んだ。
後半のスタッツ
後半のスタッツ(左:アーセナル、右:マンU)
引用:SofaScore.com
後半はユナイテッドのボール保持がさらに増えたものの、アーセナルはDFラインが集中して跳ね返し続け、カウンターで追加点を狙った。両チームともにシュート5本ながら、ビッグチャンスが2回ずつ。しかし、PKをもぎ取って追加点を挙げたアーセナルに対して、レノの牙城を最後まで崩せなかったユナイテッド。
【PickUpData】ユナイテッドはビッグチャンス5回で無得点
試合の流れ
ジャカのミドルで早々にリードを奪ったアーセナルが冷静に試合を進めたものの、ユナイテッドも個の質の高さでゴールまで迫り続けた。インテンシティが高くトランジション合戦になったものの、流れの中でビッグチャンスを多く作ったユナイテッドはゴールをこじ開けられず、逆にアーセナルはミドルとPKで2得点を奪った。
マッチスタッツ(左:アーセナル、右:マンU)
引用:SofaScore.com
お互いにゴール前まで迫った試合で、シュートは両チームともに14本。ビッグチャンスはアーセナルが2回、ユナイテッドが5回となったものの、レノの4つのビッグセーブによってユナイテッドは無得点に抑えられた。
戦術的な噛み合わせで優位に進めたアーセナルであるが、ユナイテッドもデュエルと空中戦で大きくアーセナルを上回り、アーセナルの守備をこじ開けようとした。
平均ポジション(左:アーセナル、右:マンU)
引用:whoscored.com攻撃サイド(左:アーセナル、右:マンU)
引用:whoscored.com ヒートマップ(左:アーセナル、右:マンU)
引用:whoscored.com
アーセナルはジャカから左サイドのエジルやコラシナツへの展開を起点にして攻め込んだ。
ゴール期待値、パスマップ
Arsenal vs Manchester United Running xG pic.twitter.com/KHWEyRy5wM
— Scott Willis (@oh_that_crab) 2019年3月10日
【ゴール期待値】
アーセナル:1.90点
マンU:2.33点
無得点に終わったものの、決定機を多く作ったユナイテッドがゴール期待値で上回る結果に。
【PickUpData】新データ「ディフェンシブゾーン」
ディフェンシブゾーンは、守備のアクション(ファール、タックル、インターセプト、ブロック、クリア)を行ったエリアをマッピングし、さらに各選手の守備のアクションの合計値をもとに色分けしたデータ。
黄色:5回未満、青色:5~10回、赤色:11回以上
アーセナルのディフェンシブゾーン
引用:Arsenal公式
パパスタソプーロス(5)がゴール前のエリアで唯一の赤色(11回)であり、ユナイテッドがゴール前に迫るシーンが多かったこととそれをパパスタソプーロスが防ぎ続けたことがわかる。
マンUのディフェンシブゾーン
引用:Arsenal公式
ユナイテッドは、フレッジ(17)、マティッチ(31)、ショー(23)、ヤング(18)が赤色であり、4-3-3時の両SBとボランチの守備機会が多かったことに。エジルがマティッチやフレッジの脇を使い続け、さらにサイドを起点に攻め込んだことがわかる。
【PickUpData】機能したエジル・ラムジー・ジャカ
トレイラ不在の中、エジル、ラムジー、ジャカという中盤真ん中のトライアングルはバランスを崩すことが懸念されたものの、結果的には攻守ともにお互いの持ち味を発揮する絶妙なバランスを見せて勝利に貢献した。
スタメンを確認した時点では「エジルがボールをもらいに低めに何度も下りてきて、逆にラムジーは攻撃時にすぐにゴール前に上がってしまう」という展開になってしまうことを懸念したものの、実際には全くそんなことは起こらず。
エジル(上)とラムジー(下)のボールタッチ
引用:whoscored.com
エジルとラムジーのボールタッチの詳細を見ると、エジルはそれほど下りてボールをもらわず、ほとんど敵陣内でボールタッチし、ファイナルサードでのプレーも多かったのに対し、ラムジーはボランチらしくミドルゾーンで多く絡みつつ、適度にファイナルサードでのプレーに絡むことでアクセントとして自身の持ち味も活かした。
また守備でも、これまでは前プレの強度を優先してビッグマッチではラムジーが2列目で起用されることが多かったものの、この試合ではエジルが2列目で相手のアンカーへのパスコースを消し続ける役割をしっかりこなし続けたのに加え、ラムジーも運動量と敏捷性を活かし、ユナイテッドのDFラインからボランチへのパスに素早く寄せる動きをし続けた。
エジルのコンディションが明らかに上向いていることもプラスになって成立したと考えられ、今後もこの共存は選択肢として検討されるだろう。
ジャカのパス詳細
緑:成功、赤:失敗
引用:Arsenal公式
また、前で違いを出せるエジルとラムジーがいたおかげで、持ち味の中長距離のパスを散らし続けて貢献したジャカ。フリーかつ効果的なスペースで受けることができるエジルがいたおかげで、ジャカからエジルへのパスによって攻撃のスイッチを入れるシーンが目立った。
ジャカからコラシナツへのパス
引用:Arsenal公式
さらに、ジャカから左サイドへのサイドチェンジからゴール前に仕掛ける場面も効果的となり、ジャカからコラシナツへのパスはこの試合で計10本。そのほとんどが大きなサイドチェンジのパスであった。右サイドで前進を狙いつつ、スペースが空いた左サイドに一気にサイドチェンジする狙いは機能し、ジャカのロングレンジのパスの精度の高さが活きる結果となった。
明暗が分かれたラカゼットとルカク
ラカゼットとルカクのスタッツ
引用:SofaScore.com
ともにゴール前で多くのシーンに絡んだ両チームの「No.9」、ラカゼットとルカク。
ラカゼットがジャカのミドルのアシストとPK獲得につながるプレーを見せたのに対し、ルカクはシュート4本でうちバー直撃が1本、そしてビッグチャンス4回失敗という結果となった。
ラカゼットも自身で5本のシュートを打ちながらゴールを奪うことはできなかったものの、PK獲得のシーン含め、前線で数的不利な状況でも巧みなテクニックで積極的に仕掛け続けた結果が報われたと言えるだろう。
そして、決定機を4つ決めきれなかったルカクの前に立ちはだかったのはアーセナルのGKレノ。ゴール前での至近距離のシュートを防ぐだけでなく、ルカクがCB裏のスペースに抜け出した場面でも果敢に前に飛び出してピンチを防ぐプレーを見せた。
前節のトッテナム戦でもビッグセーブを見せたレノは、確実に存在感が増してきており、プレミアの上位争いをするチームにふさわしいGKとなりつつあると言えるだろう。
リーグ4位以内確保に向けて明るい見込みが出てきたアーセナル
ノースロンドンダービーを引き分け、ユナイテッド戦を勝利で終え、このビッグマッチの連戦を十分な結果で乗り切ったアーセナル。これでアーセナルはビッグ6との直接対決を唯一終えたチームとなり、リーグ4位以内を目指す上でポジティブな状況に持っていくことに成功した。
それでも、4チームで3位・4位争いを繰り広げる過酷さは最後までもつれるはずであり、ELのタイトルも当然ながら目指し続けるはずである。ELのレンヌ戦の1stlegを落としたアーセナルであるが、このポジティブになりつつある状況を活かして、逆転してラウンド8進出を果たすことができるだろうか。
直近の試合の振り返りはこちら
終わってみればやっぱり激闘。トッテナム 対 アーセナル レビュー【2018/19プレミア第29節】
状況を一変させた退場。レンヌ 対 アーセナル レビュー【2018/19 EL ラウンド16 1stleg】
前回対戦の振り返りはこちら
してやられたり。アーセナル 対 マンチェスター・ユナイテッド レビュー【2018/19 FAカップ 4回戦】