North London is RED。アーセナル 対 トッテナム レビュー【2018/19プレミア第14節】
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試合結果とフォーメーション
2018/12/02 プレミアリーグ第14節
アーセナル 4-2 トッテナム
10分 オーバメヤン(PK)
30分 ダイアー
34分 ケイン(PK)
56分 オーバメヤン
74分 ラカゼット
77分 トレイラ
前半
アーセナルは前節ボーンマス戦に続き3-4-2-1を採用し、同じ11人をスタメン起用。負傷明けのラカゼットはベンチスタートとなり、エジルはベンチ外となった。
トッテナムは、前節チェルシー戦と同じく4-3-1-2(4-3-2-1)を採用。ミッドウィークのCLインテル戦ではフェルトンゲンとアルデルヴァイレルトがCBでコンビを組んだものの、この試合ではフェルトンゲンと若いフォイスをスタメン起用してきた。
試合は序盤からノースロンドンダービーらしいインテンシティーの高い激しい内容に。アーセナルがホームの雰囲気そのままに優位に進めると、8分にフェルトンゲンのハンドによりPKを獲得。これをオーバメヤンがきっちりと決めて、アーセナルが先制に成功。
その後もアーセナルが何度もゴール前に迫る場面を見せるものの、トッテナムも徐々にペースを掴みだすと、30分、左サイドからのフリーキックにダイアーがニアで合わせてゴールネットを揺らす。トッテナムが同点に追いつく。
トッテナムは勢いそのままに、32分、縦に早い攻撃でソン・フンミンがうまく抜け出すと、PA内で倒されてPK獲得。これをケインが決めて、トッテナムが勝ち越し。わずか数分で試合をひっくり返す。
その後はアーセナルが勢いを取り戻しつつも、ゴールは決まらずにトッテナムがリードして前半を折り返す。
トッテナムのビルドアップとアーセナルの守備
トッテナムのビルドアップでは、ダイアーが少し下りてCBをサポートして前進を試みようとした。それに対してアーセナルは、前線3枚が前から強めにプレッシングし、両WB含めた中盤の4枚もかなり高い位置までプレッシングをかけ、最終ラインもハーフコートに入りそうなほど高いラインをとって、コンパクトな陣形で猛烈にプレッシングすることでトッテナムのビルドアップを困難にした。それにより、ボール奪取からのショートカウンターを発揮したり、精度の低いロングボールを蹴らせてセカンドボールを回収するなどして、試合をかなり有利に進めた。
トッテナムのGKからのリスタートでも、トッテナムの両CBがPA脇に開いて観音開きの形とし、さらにダイアーも中央に下りるものの、アーセナルは同様に前線3枚で厳しくマークに付いて後方でのパスを許さなかった。途中からトッテナムは、ダイアー+1枚(エリクセンorシソコ)がさらに下りて、GKからのパスコースを作ろうとした。
アーセナルのビルドアップとトッテナムの守備
アーセナルのビルドアップでは、試合序盤はトッテナムがケインとソン・フンミンの2枚でアーセナルの3バックにプレスをかけてコースを制限しつつ、デル・アリは2ボランチの間に立って、ボールサイド側のボランチをチェックした。さらにうまくサイド側のCBにボールを誘導した際には、同サイドの中盤(エリクセンorシソコ)が前に出て厳しくプレスをかけたりもした。アーセナルはプレスをかけられながらも精度の高いパス交換でかわしつつ、うまくサイドを使って前進しようとした。
アーセナルに先制点を許し、チャンスも立て続けに作られていたトッテナムは、前半途中から前線のプレスを3枚に変更し、中盤もWB含めた4枚が前から厳しくプレスを掛け、アーセナルの守備と同じくコンパクトなエリアの中でインテンシティーの高い内容で真っ向勝負を繰り広げ、徐々にペースを掴みだした。
前半のスタッツ
前半のスタッツ(左:アーセナル、右:トッテナム)
引用:SofaScore.com
シュート数ではアーセナルが上回ったものの、トッテナムは4本のシュートをすべて枠内に捉えている。ビッグチャンスはお互い1回ずつ。アーセナルは10本のシュートのうち8本をエリア内で打っており、攻め込めていたことがわかる。
パス成功率、ロングボール成功率ではアーセナルが大きく上回っており、特にトッテナムのロングボール成功率がかなり低い値となった。
デュエル勝利数とタックル数ではトッテナムが上回っており、前半途中からペースを掴み返したことが表れている。
後半開始~60分
後半開始時、1点ビハインドのアーセナルは思い切った2枚替え。2シャドーのイウォビとムヒタリアンを下げて、ラカゼットとラムジーを投入。オーバメヤンとラカゼットの2トップとしてラムジーをトップ下とする3-4-1-2に変更した。
アーセナルの交代の意図・攻撃の狙い
前半途中からトッテナムが前線から数的同数で激しくプレスをかけるようになってきたため、前線へのロングボールを増やさざるを得ないことを踏まえ、起点となれるラカゼットを投入し、オーバメヤンとラカゼットの2枚が起点になれるようにしたと考えられるだろう。ラカゼットはハイボールの競り合いはそれほど強くないものの、サイドに流れてボールを受けて起点になる動きも得意であり、WBが前からのプレスで空けた後方のスペースを有効活用したい意図が伺える。
そして起点を増やした上で、ラムジーの得意なスペースに走り込んだりFWを追い越す動きによりチャンスを作ろうとした。
さらに、守備でも高い貢献ができるラカゼットとラムジーであるため、前線からのハイプレスを後半の45分も継続しようとする狙いもあったと考えられる。
交代の狙いが的中したのは56分。ラカゼットがサイドに開いてDFを引きつけて中央にスペースを作り、ベジェリンの鋭い縦パスにラムジーが走り込んでダイレクトで中に折り返すと、オーバメヤンがエリア外からダイレクトで振り抜いたボールはゴールネット隅に見事に突き刺さる。アーセナルが同点に追いつく。
61分~70分

アーセナルの2トップがうまく起点となるのを封じるため、トッテナムは61分頃から、ダイアーを後ろに下げて、フォーメーションを3-4-2-1に変更。
トッテナムのフォーメーション変更の狙い
アーセナルの2トップが広く動いて起点となり、CBがサイドに引っ張られるなどのシーンが目立ったため、3バックに変更することで、2トップに対してマークに付きやすくして起点となる動きを封じ、さらに後ろで1枚余ってカバーしやすくしたと考えられる。
71分~78分
ムスタフィの負傷により、控えCBがベンチにいないアーセナルはゲンドゥージを投入し、フォーメーションを4-3-1-2に変更する。
変わらず前線からプレスをかけてペースを握るアーセナルは74分、ラムジーがフォイスからボールを奪うと、前線のラカゼットへすかさずスルーパス。DF2枚が戻って正対するものの、うまくコースを作って打ったシュートはDFに当たってコースが変わり、見事にゴール隅に突き刺さる。アーセナルが逆転に成功する。
ホームで最高潮の雰囲気の中、直後の77分、オーバメヤンがサイドでボールを受けて起点になると、空いた中央のスペースに走り込んだトレイラにスルーパス。トレイラはDFとうまく入れ替わって抜け出してGKと1対1になると、冷静にシュートを突き刺し、とどめの1発を決める。
79分~85分
2点ビハインドとなったトッテナムは2枚替えで、デル・アリとソン・フンミンを下げて、ルーカス・モウラとウィンクスを投入。エリクセンを前に上げてルーカス・モウラと2シャドーとし、ウィンクスがボランチに入った。
86分~
85分、フェルトンゲンがこの試合2枚目のイエローカードをもらい退場。10人となったトッテナムはフォーメーションを4-4-1とする。
数的不利で2点を追うトッテナムは最後までアーセナルの勢いに押され、ノースロンドンダービーはアーセナルが制した。
後半のみのスタッツ
後半のスタッツ(左:アーセナル、右:トッテナム)
引用:SofaScore.com
後半もアーセナルがシュート数で上回った。ビッグチャンスはアーセナルの1回のみ。前半同様、パス成功率とロングボール成功率でアーセナルがトッテナムを大きく上回った。
デュエル勝利数とタックル成功数では、前半とは一変して、後半はアーセナルが上回った。
【PickUpData】サイドの攻防がキーポイントとなった
マッチスタッツ(左:アーセナル、右:トッテナム)
引用:SofaScore.com
終わってみれば、シュート数はアーセナルがトッテナムの2倍の22本。パス成功率、ロングボール成功率で大きく上回り、タックル数でも大きく上回った。文字通り、インテンシティーの高い試合を制したと言える。
平均ポジション(左:アーセナル、右:トッテナム)
引用:whoscored.com攻撃サイド(左:アーセナル、右:トッテナム)
引用:whoscored.comヒートマップ(左:アーセナル、右:トッテナム)
引用:whoscored.com
両チームともにフォーメーション変更があったものの、基本的に両チームともに中央の密度が高い布陣となったため、スペースのできやすいサイドの攻防が激しかったことがよく表れている。さらに両チームともに左サイドをより多く使った。
ヒートマップを見ると、トッテナムはPA内のみならず、敵陣内の中央のエリアが全く使えなかったことがわかる。
コラシナツのヒートマップとスタッツ
引用:SofaScore.com
得点には関与しなかったコラシナツであるが、キーパス数は5本も記録しており、ヒートマップを見ても、左サイドで縦横無尽にプレーし、左サイド深くまで進入してゴール前まで迫ったことがわかる。
【PickUpData】大きな差が出たDFラインのパス成功率
アーセナルのパススタッツ
引用:whoscored.com
途中からトッテナムのハイプレスに苦しめられたものの、アーセナルの3バックはいずれも90%を超えるパス成功率を記録し、さらに多くのロングボールも成功させている。
トッテナムのパススタッツ
引用:whoscored.com
一方のトッテナムのDF陣は、いずれもパス成功率は60%台とかなり低く、ロングボールも半分以下の成功率となっている。
アーセナルの3CBのパス
(緑:成功、赤:失敗)
引用:Arsenal公式
アーセナルの3バックのパスの詳細を見ると、多くのパスを成功させていることはもちろんのこと、サイドをうまく使って前進に貢献していることがわかる。
トッテナムの2CB+ダイアーのパス
(緑:成功、赤:失敗)
引用:Arsenal公式
トッテナムのCB2枚とダイアーのパスの詳細を見ると、多くのパスが失敗しているのに加えて、前線へのロングパスがことごとく失敗していることがわかる。
アーセナルの前線からのプレスが効いて精度の高いロングパスを出させなかったことと、主にケインに対してアーセナルのCB陣が競り負けなかったことが大きな要因と言えるだろう。
【PickUpData】何もできなかったケインとデル・アリ
トッテナムの前線で一定のパフォーマンスを見せたのは、ドリブル突破で見せ場を作ったソン・フンミンのみであり、ケインとデル・アリはほぼ何もできなかったと言える。
ケインのヒートマップとスタッツ
引用:SofaScore.com
ケインのスタッツを見ると、シュートは3本打っているものの、パス成功数はわずか5本に留まっている。
ヒートマップを見ても、サイドや低い位置でしかプレーに関与できておらず、起点になろうとしたもののそれを封じ込まれ、ゴール前でほとんどプレーできなかったことがわかる。
デル・アリのヒートマップとスタッツ
引用:SofaScore.com
デル・アリのスタッツを見ると、シュートは0本で、パス成功数もわずか10本に留まっている。
さらに皮肉なことに、ヒートマップを見るとピッチ中央が濃くなっているが、これはアーセナルのゴール後のキックオフが複数回あったためである。それが目立つほど試合を通じてプレーに関与できていなかったと言えるだろう。
【PickUpData】それほど高くなかったアーセナルのゴール期待値
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The North London Derby was fun. Here is the xG pic.twitter.com/E1XevSwq0t
— Scott Willis (@oh_that_crab) 2018年12月2日
ゴール期待値は、アーセナルが2.50点に対してトッテナムは1.13点。お互いPKが1つずつあったことを踏まえると、それほど決定機は多くなかったものの、アーセナルが高い決定力でゴールを強引に奪ったと言えるだろう。
決定力を見せつけたWエースとダービーで初ゴールを決めたトレイラ
オーバメヤンとラカゼットともに、前線で起点となる動きを確実にこなし、そして圧巻の決定力で勝利を手繰り寄せた。いずれもPA外からのシュートであり、今シーズンのハイパフォーマンスを象徴するようなプレーを見せた。
そして攻撃面のみならず、前線からのプレスでも奮闘してトッテナムのビルドアップを苦しめ、オーバメヤンはチームトップのタックル成功数(5回)を見せ、攻守においてチームに貢献できることを示した。
チームにとって欠かせない選手になっているトレイラであるが、この試合ではいつもの守備のみならず攻撃でも積極的にミドルシュートを打つ姿勢も見せると、終盤に3センターになったことでより積極的に攻撃参加するプレーを見せ、最後は圧巻のダメ押しゴールを叩き込んだ。
今季のアーセナルを支え続けている男がダービーで加入後初ゴールを奪って雄叫びを上げたことで、グーナーの心を鷲掴みにしたことは間違いない。
次はミッドウィークにマンチェスター・ユナイテッド戦
ライバルを倒して4位に浮上したアーセナルは、休む間もなくミッドウィークにアウェイでマンチェスター・ユナイテッドと対戦する。不調が続いている今季のマンチェスター・ユナイテッドであるが、厳しい試合になることは間違いない。
ビッグマッチ2連戦を連勝で切り抜けてタイトルレースに加わることができるか、非常に楽しみである。
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