エメリの采配が裏目に?アーセナル 対 トッテナム レビュー【2018/19 カラバオカップ 準々決勝】
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試合結果とフォーメーション
2018/12/19 カラバオカップ 準々決勝
アーセナル 0-2 トッテナム
20分 ソン・フンミン
59分 デル・アリ
前半
12月頭にリーグ戦で対決して以来、わずか17日後のノースロンドンダービーの再戦。
両チームとも、怪我人の状況やカップ戦であることが影響し、特に最終ラインが前回と大きく顔ぶれが変わっている。
アーセナルは、ここのところ続いていた3バックから一転、スタートから4バックを採用。しかし、CBが緊急事態であるため、またしてもジャカがCB起用に。
トッテナムは、ケインをベンチスタートとし、ソン・フンミンとルーカス・モウラの2トップ。こちらはおなじみの4-3-1-2の布陣。
試合序盤はアーセナルがシュートまで結びつけ勢いをつけるものの、次第にトッテナムもペースを掴む。
迎えた11分、ムヒタリアンがラムジーとのワンツーで完全にDFラインを抜け出すと、GKとの1対1で打ったシュートはコースが甘く、難なく弾かれてしまう。アーセナルはビッグチャンスを物にできず。
すると20分、アーセナルの攻撃が失敗に終わると、ガッサニガがすかさず前線へパントキック。ルーカス・モウラ、デル・アリとつながると、裏のスペースに飛び出したソン・フンミンにボールが渡り、GKと1対1。これを冷静に決めて、トッテナムが先制に成功する。
その後、一進一退の攻防が続くも、アーセナルは40分過ぎに立て続けにチャンス。しかし、これを決められずに、トッテナムが1点リードして前半を折り返す。
アーセナルのビルドアップとトッテナムの守備
アーセナルのビルドアップ時、トッテナムは2トップでCBにプレスをかけてコースを制限しつつ、デル・アリはボランチをケアし、3センターはボールサイドにスライドして、SBおよびボランチをケアしつつ2列目へのパスコースを遮断した。これによりアーセナルはなかなか2列目にボールを渡すことができず。
しかし、2列目にボールが渡ってしまえば4対4の状況となり、ゴール前までボールを運びやすい状況となっていた。ラムジーが低めに下りたりするなどの工夫があったが、あまり効果的には機能しておらず、唯一ムヒタリアンが右ハーフスペースでうまくボールを受けて前線に繋げるシーンが何度かあった。
トッテナムのビルドアップとアーセナルの守備
トッテナムのビルドアップ時、アーセナルは4-4-2の陣形とし、オーバメヤンとラムジーでコースを制限しつつ、SHとボランチで前からプレスをかけようとしていた。しかし、フォーメーションの噛み合わせ上、7対6の状況となりやすく、アンカーのウィンクスが低めに下りてボールを受けようとすることで、アーセナルは前からプレスで嵌めきれない状況ができやすくなった。
それでも前からプレスをかけようとするアーセナルはボランチがウィンクスまでプレスをかけようとすると、逆にバイタルエリアにスペースができやすくなり、そこを狙われる。トッテナムはDFラインからそのスペースへロブパスを入れることで、前線3枚のうちのいずれかの選手がうまくスペースでボールを収め、そこから前線3枚の流動的な動きで速攻を仕掛ける場面を作ることに成功していた。
前半のスタッツ
前半のスタッツ(左:アーセナル、右:トッテナム)
引用:SofaScore.com
前半、両チームともに枠内シュートはわずかであったが、トッテナムがビッグチャンスを決めきり、リードを奪った。
後半開始~57分
1点ビハインドのアーセナルは、後半開始時にムヒタリアンに代えてコシェルニーを投入。フォーメーションを3-4-2-1に変更した。
これに対応したのかリードしてる状況を踏まえてかわからないものの、トッテナムも、攻撃時は4-2-3-1、守備時はよりシンプルに4-4-2のブロックを後半から敷き始める。
アーセナルのビルドアップとトッテナムの守備
後半に入り、アーセナルが3バックに変更したことで、後方では3対2で数的有利な状況となった。しかし、トッテナムが4-4-2のブロックを作ったことで、サイドからも簡単には前進できない。しかし、ストロングポイントである左サイドから、ジャカ、モンレアル、ゲンドゥージ、イウォビの連携を活かして前進する場面を増やしつつ、そこにオーバメヤンやラムジーが適時関わることで、オーバーロードを作った左サイドからゴール前へ進入するシーンを増やした。
また、これにより、逆サイドではスペースができやすくなり、左サイドで前進してからサイドチェンジでナイルズにボールを渡し、ゴール前でいい形を作るシーンも増やすことに成功した。
トッテナムはリードしてる状況を活かして、守りを固めつつカウンターを狙うようになった。
58分~64分
ゴールを奪えないアーセナルは、58分にイウォビに代えてラカゼットを投入。ストライカーを増やして、3-4-1-2に変更した。
さらに同じタイミングでトッテナムもエースのケインをルーカス・モウラに代えて投入する。
すると直後、GKからのロングボールをバイタルエリアのスペースで受けたケインがすかさずCB裏のスペースにパスを出すと、抜け出したデル・アリがGKと1対1となり、冷静にループでゴールネットを揺らす。トッテナムがリードを2点に広げる。
65分~
2点ビハインドとなったアーセナルは、ゲンドゥージに代えてエンケティアを投入し、ストライカー3枚を並べた3-4-3に変更する。ラムジーはボランチに移り、より攻撃的な布陣となる。
70分過ぎ~
2点リードしているトッテナムは、デル・アリも中盤に下がり、4-5-1のブロックで守り切る作戦。
アーセナルが押し込む時間が増え、WBを高い位置に上げて前線に5枚を並べるものの、トッテナムのブロックを攻略できず。3バック左に入っているジャカが起点となるシーンが増え、得意のロングボールを活かしてナイルズにピンポイントでボールを届けるシーンを作るものの、ナイルズから決定機を作れず。
そのままトッテナムがカウンターを匂わせながらも守りきり、ノースロンドンダービーはトッテナムのリベンジで幕を下ろした。
後半のスタッツ
後半のスタッツ(左:アーセナル、右:トッテナム)
引用:SofaScore.com
押し込んだアーセナルであるが、シュートは5本のみで枠内シュートは0本。逆にトッテナムはシュート4本のみで終わるものの、ビッグチャンスをしっかりと決めて2点目を奪った。
【PickUpData】決定機を活かしきったトッテナム
マッチスタッツ(左:アーセナル、右:トッテナム)
引用:SofaScore.com
枠内シュートはそれぞれ2本と3本、ビッグチャンスも1つと2つ。トッテナムが途中から守備に重心を置いた影響もあるものの、決定機の少ない試合となった。
攻撃サイド(左:アーセナル、右:トッテナム)
引用:whoscored.com
両チームともに左サイドからの攻撃が多くなった。アーセナルはもともと左サイドからの前進が多く、トッテナムもソン・フンミンやデル・アリが左サイドに流れるシーンが目立った。
ヒートマップ(左:アーセナル、右:トッテナム)
引用:whoscored.com
アーセナルはジャカのポジションが起点となっていたことが目立っており、サイド深くやPA内まで進入できていたことも表れている。決して全く崩せなかったわけではないと言えるだろう。
またトッテナムは、2ゴールを奪ったもののPA内への進入は少なく、速攻やカウンターからチャンスを作り、それを見事に決めたと言えるだろう。
ゴール期待値
Arsenal vs Tottenham Hotspur Running xG,
After defying xG on the positive side with bad performances, it isn’t a surprise when that run comes to an end. The chance quality was pretty even but still not nearly good enough to say they deserved a win. pic.twitter.com/FGz7nAAU3e
— Scott Willis (@oh_that_crab) 2018年12月19日
ゴール期待値は、アーセナルの1.59点に対して、トッテナムは1.54点。ほぼ互角の内容であった。やはり決定力の差であったことが表れている。
エメリの采配がこの試合では裏目に出たか
後方から前線への繋ぎの役割を唯一果たしていたと言えるムヒタリアンを前半のみで下げてしまったのには疑問が残る。コンディションに問題があったのだろうか。特に前半はイウォビがあまりプレーに関与できておらず、ムヒタリアンのパフォーマンスがチャンスを作るための生命線であったと言える。
また、イウォビの交代、ゲンドゥージの交代と続き、より一層繋ぎがいなくなり、前線にはFW3枚を並べ、ほぼパワープレーのような状態になってしまい、トッテナムに引いて守りきられてしまった。ラムジーのボランチ起用も、後方でパス回しに参加している時間も多く、本来の良さが表れにくい中途半端な采配となってしまったように見える。
今後のリーグ戦を踏まえてのコンディションも考慮しての交代カードもあったのかもしれないが、この試合へのアプローチという面では、トッテナムのほうが上手だったと言えるだろう。
エジルのベンチ外は何を表しているのだろうか
週末のリーグ戦で途中からプレーしており、その後負傷の情報もなかったエジルが、この試合ではまさかのベンチ外。コンディションや戦術的理由からベンチスタートとなることは十分可能性があり、これまでもエメリはそのような判断をすることがあったものの、ベンチ外はさすがに意外であり、さらにその理由は”戦術的判断”とのこと。
わざわざコンディション不良を戦術的判断と言い換える必要性もあまり感じられず、ウィロックをベンチに置いてエジルをベンチ外にした判断は、コンディションの問題が含んでないとしたら重大事項である。
トップ下や2列目のキーマンとしては、シーズン序盤はラムジーが重用されていたものの、次第にエジルの出場機会も増え、ラムジーの来夏退団も踏まえ、エジルの優先順位が上がっているように見えていた。しかしここにきてのベンチ外は、エジルの評価が低いということを認めざるを得ない事実となってしまう。
なんらかの裏事情があっただけかもしれないが、もしエジルも戦力として重要視されておらず、このまま移籍の方向へ進んでしまうとすれば、エジルとラムジーが一気に退団ということとなり、さらなる改革となるだろう。
今後のリーグ戦でのエジルの起用法に注目しつつ、またエジルがピッチで逆境を跳ね返すのを信じて期待したい。
切り替えて、リーグとELに集中し直すのみ
負傷者続出によるDFラインの脆さは状況的に仕方ない面もあると言えるが、ここにきて前線の得点力・決定力が下がっているのが余計に影響が大きい。しかし別の見方をすれば、オーバメヤンとラカゼットの決定力に助けられて勝ち点を積み重ねてきた部分が大きいとも言える。
フォーメーションを使い分けたりしてきているものの、エメリ1年目としてチーム構築中なのは確かであり、まだまだチームとしての成熟度は高いとは言えないだろう。ある程度スタメンが固定できていたことで結果が出ていたのは間違いなく、負傷者によりメンバーを入れ替えて臨む中でクオリティーが落ちてしまうのは今は仕方ないとも言える。
何連敗もしたわけでもなく、まだまだどん底ではないため、ここで切り替えて、リーグ戦とELに再び照準を絞り、チームの勢いを取り戻すことを期待したい。
この試合のフルタイム、ハイライト映像はArsenalPlayerで
前回のノースロンドンダービーの振り返りはこちら