カメレオン・エメリの奇策の勝算。リバプール 対 アーセナル レビュー【2019/20 プレミア第3節】

アーセナル

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第3節にして早くもBIG6同士のビッグマッチ。アーセナルがアウェイに乗り込んでリバプールとの対戦。

 

エメリ奇策の4-3-1-2

試合結果

2019/08/24 プレミア第3節

リバプール 3ー1 アーセナル

40’ マティップ
48’ サラー(PK)

58’ サラー

84’ トレイラ 

 

ペペをビッグマッチで初スタメンに抜擢

2019-2020_プレミア第3節_リバプールvsアーセナル スタメンとフォーメーション

アーセナルは意表を突いた4-3-1-2。プレシーズンでも一度も試しておらず、昨シーズンもわずか259分しか採用していないフォーメーション。

しかも、ペペが初スタメンの他、ダビド・ルイスセバージョスウィロックらをスタメンで起用し、新加入選手や若手が多く、戦術の浸透度が気になるところ。

快速2トップを採用したためラカゼットはベンチスタートとなり、さらにエジルはベンチ外。

 

対するリバプールはほぼお馴染みのメンバーで4-3-3アリソンが離脱中のため、GKはアドリアン

 

【前半】リバプールの両SBを受け入れるアーセナル

予想外の4-3-1-2を採用したアーセナルは、守備でも自陣に引き気味で4-3-1-2のままブロックを作る

アーセナルの中盤のブロックが3枚であり、サイドを守るには左右のスライドが必要なため、リバプールの両SBがあがるスペースが空きやすくなる状況

2019-2020_プレミア第3節_リバプールvsアーセナルこれにより、ファビーニョが中央から左右に散らしつつ、アーノルドロバートソンの両SBが積極的に上がってクロスを連発する展開に

しかし、アーセナルとしてはこれはおそらく想定通りの展開であり、ペナルティーエリア内の守備を固めてパパスタソプーロスダビド・ルイスを中心にクロスを跳ね返し続ける。

 

ペペのスタメン起用の狙い

アーセナルのマイボールになると、前線に残したオーバメヤンペペのスピードを活かすために前方のスペースへ早めにロングパスを送る。特に、右サイド奥のスペースにロングボールを送り、そこにペペが走り込む形を何度も狙った。しかし対峙するのは主にファン・ダイク。簡単にそこからチャンスを作らせてくれない。

それでも、リバプールの両SBが上がっていることで敵陣内で2対2や2対3の状況を作ることができ、速攻やカウンターから前半だけで2回の決定機を作った

 

また、アーセナルGKからのリスタート自陣低めでのCBからのビルドアップでは、2-4-2-2のような立ち位置でリバプールのプレスを突破しようとした。

しかしリバプールは両SBもかなり高めの位置を取り、7,8人でスライドしながら追い込んでくるため、アーセナルとしては連動したポジショニングでわずかなフリーを作りつつ、精度の高いダイレクトパスを繋げないと前進できない状況に追い込まれた。前線では2対2や2対3の状況となっているものの、リバプールのプレスが早いために前線にロングパスを送る余裕を作らせてくれず。

 

得点が生まれたのはセットプレー

前半25分頃から、セバージョスが左サイドに入り、アーセナル4-4-2のような形で守るシーンが増える。

中盤の枚数を増やしたことで左右のスライドが減り、逆サイドの中盤の選手はリバプールのSBをケアしてペナルティーエリアに入るシーンも増え、ペナルティーエリア内で5枚でクロスを跳ね返すように。

 

リバプールがクロスを上げ続ける展開が続く中、試合が動いたのは40分。リバプールの右CKからのクロスにマティップがヘディングで合わせてゴールネットを揺らす。リバプールが先制に成功

そのままリバプールの1点リードでハーフタイムへ。

 

【前半スタッツ】枠内シュート数はともに2本のみ

データ引用元:SofaScore

前半のスタッツを見ると、リバプールシュート15本クロス24本が際立っている。

 

前半のリバプールのクロス
【緑】成功【赤】失敗

引用元:Arsenal公式

リバプールクロスを24本上げたものの成功したのは6本。オープンプレーでのクロスに限るとわずか2本

サイド深くまで突破してからのマイナスのクロスはほとんど無く、アーリークロスが多いことがわかる。リーグ随一の両SBからのクロスとはいえ、しっかりとペナルティーエリア内でアーセナルのDFが4,5人待ち構えている状態を作れていれば、高さに強みが無いリバプールの3トップなら、クロスはそれほど脅威になりにくかったと言えるだろう。

 

前半のリバプールのシュート
【緑】成功【赤】失敗

引用元:Arsenal公式

また、リバプールは前半だけで15本のシュートを打ちながらも、枠内シュートはわずか2本で、アーセナルがブロックしたシュート8本

ペナルティーエリア外からのシュートも多く、脅威となるシュートはほとんど無かった。

 

押し込まれてクロスを多く上げられてシュートも多く許したものの、クロスもシュートも多くを跳ね返しており、アーセナルは狙い通りに守れていたと言えるのではないだろうか。

 

逆にアーセナルの攻撃では、シュート5本のみに終わったものの、リバプールと同じく枠内シュート2本

前半のペペのドリブル
【緑】成功【赤】失敗

引用元:Arsenal公式

この試合のカウンターの狙いの中でキーマンとなったペペは、前半だけでドリブル突破5回中4回成功させ、スピードと突破力を活かして攻撃の形を作った。

アーセナルは決定機を決めたかったのは間違いないが、セットプレーの失点さえなければ前半は合格点の内容であったと言えるのではないだろうか。

 

【後半】ビハインド時の策が乏しかったアーセナル

後半に入ると、1点ビハインドのアーセナルラインを少し上げ、前からプレスをかける意識を徐々に強めていく。

それに対しリバプールは、アーセナルの中盤の3センターのあいだにできやすくなったスペースを活用し、中央でのダイレクトパスやコンビネーションでゴールに近づくシーンを増やしていく。サラーもサイドに張ったり少し手前に下りたりして、前半よりもシンプルにボールを受けるシーンを増やしていく。

すると48分、ダビド・ルイスがペナルティーエリア内でサラーを引っ張り、これがPKの判定。これをサラーがしっかり決めて、リバプールが追加点

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2点ビハインドのアーセナルは前からボールを奪おうとするも奪えず、余計にリバプールの速攻を許す場面を増やしていく。

すると58分、リバプールが後方からのビルドアップでファビーニョがダイレクトで一気に右サイド奥にパスを出すと、サラーが先にボールを触り、そのままダビド・ルイスをかわして突破。スピードに乗ってペナルティーエリア右に進入すると、左足のシュートをファーサイドに突き刺す。リバプールが点差を離す3点目

 

トレイラによりビルドアップ改善

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3点差を追うアーセナルセバージョスに代えてトレイラを投入。ウィロックがトップ下に移り、トレイラが3センターの右、ゲンドゥージが左に。

アーセナルの後方からのビルドアップでは、トレイラがリバプールの選手たちのポジショニングを何度も確認して中間ポジションを取りつつ、ボールを引き出したらダイレクトでサイドにはたいてナイルズに繋げることで、右サイドから敵陣に進入するシーンを増やしていく

そこからナイルズペペのコンビネーションで右サイド奥まで前進するシーンを作るが、リバプールはSBもしっかり下がってDFラインを揃えており、ペナルティーエリアにはオーバメヤンしかおらず、単調なクロスで終わることに。

それでも、トレイラダイレクトパスや縦パスを起点に、アーセナルは攻める回数を増やしていく。

 

オバ・ラカ・ペペの3トップ実現

80分、アーセナルウィロックに代えてラカゼットを投入。フォーメーションを4-3-3に変更し、前線は左にオーバメヤン、中央にラカゼット、右にペペの3トップ。

ラカゼットが入ったことで、よりシンプルに前線にボールを入れるシーンが増え、ラカゼットも体を張ってキープして起点を作る。

すると84分、中盤でセカンドボールを回収したジャカがペナルティーエリア左のオーバメヤンに素早く縦パスを入れると、オーバメヤンは中にカットインしつつ走り込んだトレイラにパス。トレイラはDF陣の前でうまくシュートコースを作ってゴールネットを揺らす。アーセナルが1点返す

しかし、アーセナルの反撃もここまで。リバプールがホームでの強さを発揮して勝利を掴んだ。

 

【後半スタッツ】前半とはまったく異なる内容

データ引用元:SofaScore

前半と後半のスタッツを比較してみると、リバプールクロス本数が激減し、アーセナルボール支配率とクロス本数が大幅に増加しており、ハーフタイムを境にまったく異なる試合内容であったことがよくわかる。

得点経過に伴ってリバプールがやり方を変えていったのが大きく影響しているだろう。

攻める時間帯を増やしたアーセナルであるが、シュートまで繋げられたのは4回のみであり、枠内シュートわずか1本。1点を返したものの、リバプールのDFを崩すには至らなかった。

 

攻守ともに機能していなかった”1”の役割

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セバージョスにとってはほろ苦いビッグマッチデビューとなった。しかし、本人のパフォーマンスが悪かったというよりは、攻守ともに役割が適切であったかどうかに疑問が残る。

攻撃では、チームとしてのメインの狙いはカウンターであり、オーバメヤンペペのフォローができればもう少しゴール前で厚みのある攻撃を出せたかもしれないが、守備で後方に下がっている分、前線に上がるにはロングスプリントが必要となり、ほとんどフォローすることができず。

後方からのビルドアップでも、キープ力や突破力を活かそうとしたもののリバプールの素早いプレスに苦戦し、持ち味を発揮するシーンはほとんど無かったと言える。

さらに守備では、3センターの手前で制限しようとするも、ファビーニョを抑えられず、自由に左右に展開され続け、結果的に3センターの左右のスライドを何度も強いられることとなった。

前半のファビーニョのパス
【緑】成功【赤】失敗

引用元:Arsenal公式

 

後半途中からはウィロックセバージョスと同じ役割で"1″の位置に入ったが、セバージョスと同様に攻守において機能性が低くなり、ほとんど試合から消えてしまった。

”1”は本当に必要だったのだろうか。

カウンターのみならず、ビルドアップによる攻撃でももう少し形を作りたい思惑があり、セバージョスのキープ力や推進力を期待して、セバージョスが活躍するイメージありきの"1″だったのかもしれない

 

異なる”1”の可能性

”1”に他の選手を起用することで別の特徴を出しても良かったのではないだろうか。

 

例えばトレイラを”1”に起用していれば、前半に自由に両サイドに展開されるのをもう少し制限できた可能性はある。

前半いやらしかったのは、ファビーニョやヘンダーソンのサイドチェンジ。ファビーニョは中央に陣取って左右に散らし続け、ヘンダーソンはより中距離のパスでサイドチェンジを展開していた。

トレイラにしつこくファビーニョを追いかける役割を与えていれば、もう少しリバプールの展開を詰まらせることができ、マイボールにする時間を増やすことができたかもしれない。

 

もしくは、”1”にラカゼットを起用する案もあったのではないだろうか。守備では献身性を発揮でき、攻撃ではキープしたり周りを使うことができる選手。

守備ではセバージョス以上の働きにはならないとしても、攻撃ではカウンターの起点になったりカウンターのフィニッシュに絡むプレーが期待できたのではないだろうか。

スタートからの起用はリスクが高かったとしても、3点差となりトレイラを入れたタイミングで同時に投入していれば、もう少し反撃できたのではないかと考えてしまう。

 

エメリの奇策の是非

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昨シーズンのホームではかなりの善戦の末に引き分けに終わっているこの対戦。リバプールのお得意のプレスに対してSBへのロブパスで活路を見出したアーセナルは、前半を内容で上回って折り返した。しかしリバプールは早くもハーフタイムに修正し、守備時の立ち位置を変えることでロブパスを無効化。リバプールが内容で挽回すると、結果的に終盤に1点ずつ取り合ってドローに。

 

しかしアウェイでの試合では、すでに対策されているロブパスを再び活用するも、当然ながらリバプールはうまく対応し、アーセナルは右サイドにリヒトシュタイナーとナイルズを縦に並べて起用するしかない選手層も影響し、前半だけで3点差を付けられたのち、5-1で大敗した。

 

昨シーズンの2試合を踏まえ、それ以降にアーセナルは戦術的な上積みや完成度の向上があまり感じられず、新戦力もまだフィット途中という中、完成しきっていてメンバーも変わらない欧州王者に対して、真っ向勝負で臨んで勝算はあっただろうか。

ビハインドで前に出ざるを得なくなった後半開始から3点目を奪われるまでのわずか15分のあいだに、何度中央からゴール前までの前進を許したか。この試合の後半の内容が真っ向勝負の結果を示しているのではないだろうか。

『後方からショートパスを繋いで前進して押し込み、守備では前からプレスをかけてボールを奪ってショートカウンターを狙う』という戦い方で勝てればすべての人が満足できるかもしれないが、リバプール相手にそれで上回るクオリティーは少なくとも現時点ではないだろう。

であれば、ジャカに加えてダビド・ルイスというロングパスの出し手が増え、オーバメヤンに加えてペペという単独で突破できてゴールに絡むプレーができる前線の選択肢がある中で、引いてカウンターをやりきるプランは、現時点のチームとしての完成度や選手層、選手の特徴を考えた上での勝算が見込めるものであったのではないだろうか。

内容的にはほぼプラン通りで進めることができたと思われる前半にセットプレーで失点したのはもったいないし、2,3回あった決定機を決められなかったのは悔いが残る。

しかし、これだけ完成度に差がある相手に対して、ビハインドになった際のプランが見られなかったのが一番残念なポイント素早い決断による2枚替えやフォーメーション変更を昨シーズン何度も見せてきたエメリだからこそなおさら。後半のわりと早い時間にあっさりと3点差になったことで、この試合よりも次節のダービーマッチのことが頭によぎったのだろうか。

 

対リバプールという点では、クロップ・リバプール対エメリ・アーセナルの4回目の対戦となる次回のホームでの試合までに、リバプールを上回る完成度のチームを作り上げることに期待したい

そして次節のトッテナムとのノースロンドンダービーでは、リバプール以上に負けられない相手であり、かつホームでの試合となるため、カメレオン・エメリがどのような采配を準備して臨むのか非常に楽しみである。

 

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