首位の貫禄。リバプール 対 アーセナル レビュー【2018/19プレミア第20節】
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前回のアーセナル対リバプールのレビューはこちら
”本物”であることを示したアーセナル。アーセナル 対 リバプール レビュー【2018/19プレミア第11節】
試合結果とフォーメーション
2018/12/29 プレミアリーグ第20節
リバプール 5-1 アーセナル
11分 ナイルズ
14分 フィルミーノ
16分 フィルミーノ
32分 マネ
47分 サラー(PK)
65分 フィルミーノ(PK)
前半
リバプールはこのところフィットしてきているシャキリを起用した4-2-3-1の布陣。アーセナルはムスタフィが負傷明けでスタメン復帰し、久しぶりの4-2-3-1を採用。エジルとムヒタリアンが欠場の中、2列目右にはナイルズを抜擢。
試合は序盤からリバプールのインテンシティーの高さが目立つものの、先制したのはアーセナル。10分、ロブレンのロブパスをコラシナツがカットすると、イウォビが左サイドの連携から抜け出し、早めに低めのクロス。これに逆サイドから詰めたナイルズがダイレクトで押し込みゴールネットを揺らす。アーセナルがアウェイで先制に成功。
しかし13分、狭いスペースの中でフィルミーノとサラーの2人でPAまでゴールを運ぶと、PA内でDFに当たってこぼれたボールをフィルミーノが押し込み、リバプールが早くも同点に追い付く。
さらに15分、アーセナルのビルドアップ時、ラムジーがトレイラに戻したところをマネが寄せてボールを奪うと、フィルミーノがボールを拾いそのままゴール方向に一気に直進。ムスタフィとパパスタソプーロスをドリブルで交わすと、そのまま冷静にゴールネット右にシュートを突き刺す。リバプールが一気に逆転に成功する。
そのままリバプールペースが続くと、31分、リバプールの右CKをアーセナルが弾き、後方でロバートソンがボールを拾うと、すぐさま前線へロングフィード。アーセナルはラインを上げてオフサイドを取ろうとしたものの、サラーが抜け出しPA内でダイレクトで折り返すと、中で詰めたマネが押し込んでゴールネットを揺らす。リバプールが追加点を挙げる。
その後アーセナルにもシュートチャンスがあるもののゴールにはつなげられずにいると44分。アーセナルの攻撃からアリソンがボールをキャッチすると、すぐに前線で右に開いてフリーになっていたフィルミーノへ低空のロングフィード。これが見事に通り一気にカウンターとなると、サラーが右のスペースでボールを受けてからPA内へ進入。これをパパスタソプーロスが倒してしまいリバプールにPKを献上。これをサラー自らが決めて、リバプールが前半で4得点目。
リバプールが3点リードして前半を折り返す。
リバプールのビルドアップとアーセナルの守備
リバプールのビルドアップ時、アーセナルはオーバメヤンとラムジーの2枚で前からプレスし、さらに左サイドのイウォビが若干前目でプレスをかける形。リバプールは最終ライン+ダブルボランチで余裕を持って前線への展開を探ることができる状態。
アーセナルは全体で連動して前からプレスをかけられず、サラーらのスピードを恐れてラインも高くできず、中盤のスペースが空いてしまう。ファビーニョやワイナルドゥムはCB間やSBのポジションに下りるなどしてアーセナルの前からのプレスをいなし、さらに2列目のマネ、フィルミーノ、シャキリが代わる代わるアーセナルのボランチ周辺のスペースに下りてきてボールに関与することで、前進するきっかけを作っていた。そして、余裕ができたところでSBが高めのポジションに上がって前線での起点を増やし、後方からのロングフィードなどで一気にゴール前までボールを運んでいた。
イメージ的には、最終ライン-中盤、前線-中盤のいたるところで2,3人の選手が連動してポジションをずらし、アーセナルの守備に迷いが生じてマークがしにくい状況を積み重ねることで、リバプールはフリーの選手を生み出して前進していた。
アーセナルのビルドアップとリバプールの守備(GKから)
アーセナルのGKからのビルドアップ時、リバプールは3枚で前からプレスをかけ、ショートパスでの前進を自由にさせなかった。前回対戦時にはレノからのロブパスで同じ状況をうまく突破しており、この試合での主なパスの狙い目は左サイドのコラシナツ(対シャキリ)やイウォビ(対アーノルド)としていたものの、その後がつながらずにあまり効果的な前進にならなかった。
前回はオーバメヤンとラカゼットが同時出場していたために前線にもロングパスの受け手がおり、レノにとってはより多くのターゲットがあったものの、この試合ではオーバメヤンしかいなかったため、リバプールのCB相手には効果的にならず。両サイドでは左のコラシナツに比べて右のリヒトシュタイナーが若干フリー気味になっていたように思えるものの、キープ力やテクニックはあまり期待できないため、レノとしてはそこに出しにくく、リバプールとしてもそれほど警戒していなかったように思える。
アーセナルのビルドアップとリバプールの守備(ミドルゾーン)
前回対戦時の図をあえてそのまま流用すると、前回対戦時、前半にアーセナルのビルドアップを封じ込められなかったリバプールが後半開始から守備時に4-3-3ではなく4-4-1-1(4-4-2)に変更し、アーセナルのビルドアップを難しくすることに成功していた。
この試合では試合開始からこの形を採用し、ミドルゾーンまで進められた場合は、サラーとフィルミーノが縦関係になったり横関係になったりしながらボランチへのパスを簡単に入れさせず。入れさせる場合でもパスコースを限定して狙い目を明確にすることで中盤からのプレスをかけやすいようにして、簡単に前を向かせないようにした。これによりアーセナルはショートパスでの前進に苦戦した。
特に、自由に動いて相手の守備のバランスを崩そうとする動きができるエジルや、高めのポジションを取るベジェリンが不在であったため、より一層、打開策を見つけられず。
前半のスタッツ
前半のスタッツ(左:リバプール、右:アーセナル)
引用:SofaScore.com
リバプールは、シュート7本のうち5本が枠内であり、ビッグチャンス4回(うちPK2回)をすべて決めている。また、シュート7本すべてがPA内からのものであり、崩しきっていたことがわかる。
アーセナルも、シュート4本ながらビッグチャンス1回を確実に決めて先制したものの守りきれず。
リバプールは、デュエル勝利数32回、タックル成功数10回のうち9回というスタッツを見せ、持ち味のインテンシティーの高さを発揮した前半となったと言える。
後半開始~61分
後半開始時、アーセナルはムスタフィに代えてコシェルニーを投入。フォーメーションに変更はなく、負傷があったか、復帰直後のコンディションを考慮しての交代と思われる。
3点のリードがあるリバプールは、後半から守備時に前からのプレスを弱め、より4-4-1-1(4-4-2)の状態を早く作って守るようになる。
62分~77分
リバプールは62分にマネに代えてヘンダーソンを投入。ヘンダーソンをトップ下気味にし、フィルミーノが左サイドに移る。
ヘンダーソンは機を見て前からプレスをかけつつも、サラーを前に残して4-5-1のブロックを敷く場面が増えるようになる。
63分、リバプールは右CKでショートコーナーからヘンダーソンがクロスを上げると、PA内でコラシナツがロブレンを倒してしまいPKを献上。今度はフィルミーノが決め、リバプールがリードをさらに広げる5点目。フィルミーノはこれでハットトリック。
アーセナルは71分にオーバメヤンに代えてラカゼットを投入するも、大きく流れは変わらず。
78分~79分
リバプールはワイナルドゥムに代えてララーナを投入。フォーメーションを4-3-3気味に変更する。しかし、守備時は変わらずに4-4-1-1(4-5-1)とし、守りを固めつつカウンターを狙う。
80分~
アーセナルは80分にコラシナツに代えてゲンドゥージを投入。フォーメーションを4-3-2-1に変更し、ナイルズを左SBに移し、中盤を3センターに。
しかしその後もアーセナルはチャンスを作れず、リバプールが首位の貫禄を見せる圧倒的な内容と結果で勝利を掴んだ。
後半のスタッツ
後半のスタッツ(左:リバプール、右:アーセナル)
引用:SofaScore.com
後半はリバプールが引き気味に構えたことでアーセナルのボール保持が増えたものの、シュート数はリバプールがアーセナルの倍の8本で、うち5本が枠内。ビッグチャンスも2回作り、うち1回のPKを確実に決めて勝利を決定づけた。
追い上げたいアーセナルであったが、シュート4本でうち枠内が0本。ビッグチャンスも0回となり、最後までリバプールの守備を崩すことができなかった。
【PickUpData】ピッチ全体を使って効果的なプレーをし続けたリバプール
マッチスタッツ(左:リバプール、右:アーセナル)
引用:SofaScore.com
リバプールがシュート15本のうち枠内が10本。ビッグチャンス6回のうち5回を決めて確実にゴールを積み重ねた。
平均ポジション(左:リバプール、右:アーセナル)
引用:whoscored.com
リバプールは、左SBのロバートソンがハーフウェイライン付近の高い位置を取れていることが特徴的である。一方のアーセナルは、孤立したオーバメヤンがかなり低い位置となっており、ゴール前でプレーに関与できなかったことが表れている。
攻撃サイド(左:リバプール、右:アーセナル)
引用:whoscored.com
リバプールは満遍なくエリアを使えており、アーセナルは中央からの前進ができなかったのと、後半特に左サイドからの前進が多くなったことが表れている。
ヒートマップ(左:リバプール、右:アーセナル)
引用:whoscored.com
リバプールは、流動的なポジショニングと縦に早い攻撃を象徴するように、ヒートマップの濃淡の差が少なく、そのエリアもピッチ全体に満遍なく広がっている。
一方のアーセナルは、相手陣内でプレーができず、PAにはほとんど入れなかった。
ゴール期待値
Liverpool vs Arsenal Running xG pic.twitter.com/eG78BNk5Jq
— Scott Willis (@oh_that_crab) 2018年12月29日
ゴール期待値は、リバプールの3.97点に対して、アーセナルは1.05点。結果の大差を象徴する値となった。
【PickUpData】驚異となり続けたリバプールの攻撃陣
リバプールの攻撃スタッツ
引用:whoscored.com
ハットトリックを決めたフィルミーノは、シュート5本(うち4本が枠内)、キーパス2本、ドリブル成功数3回というあっぱれのスタッツを記録。サラーも枠内シュート2本、キーパス2本で、マネも枠内シュート2本、ドリブル成功数5回を記録。前線の3選手がいずれも効果的なプレーを見せた。
オーバメヤンのスタッツ
引用:SofaScore.com
一方のアーセナルのオーバメヤンは、71分の出場ながら13回しかボールにタッチできず、そのうち6回はキックオフのもの。シュートも枠外が1本のみ。前線で孤立し、効果的なプレーをすることができなかった。
【PickUpData】パスで見る両チームの差
リバプールのパススタッツ
引用:whoscored.com
リバプールのロングパスのスタッツを見ると、アリソン、ファン・ダイク、両SBがいずれも多くのロングパスを成功させており、大きな展開でアーセナルの守備を揺さぶることに成功していたと言える。
アリソン(左)とレノ(右)のパスの詳細
※緑:成功、赤:失敗
引用:Arsenal公式
両チームのGKのパスを比較すると、成功率(緑の多さ)の差は一目瞭然であり、さらに、アリソンはハーフウェイライン付近への長距離のパスを何本も通していることがわかる。
リバプールのCBのパスの詳細
(左)ファン・ダイク、(右)ロブレン
※緑:成功、赤:失敗
引用:Arsenal公式
アーセナルのCBのパスの詳細
(左)コシェルニー、(中)パパスタソプーロス、(右)ムスタフィ
※緑:成功、赤:失敗
引用:Arsenal公式
さらに両チームのCB陣のパスを比較すると、ファン・ダイクが高い位置でもボールに関わり、ファイナルサードの境目付近の両サイドへ何本もパスを通していることがわかる。一方のアーセナルは、パパスタソプーロスはサイドチェンジの長いパスもあるものの、コシェルニーとムスタフィは近くへのショートパスしかつなげていないことが表れている。
リバプールがアリソンやファン・ダイクのパス精度を活かして、後方から縦に早い攻撃の起点となっていたことがわかる。
シャキリのパスの詳細
※緑:成功、赤:失敗
引用:Arsenal公式
また、中盤の選手に着目すると、リバプールのビルドアップに貢献していたと言えるのがシャキリの動き。幅広く動いてボールに関与していたことがよくわかる。右サイドをスタートポジションとしながらも、中央や低めに顔を出してボールを受けてアクセントを付けることで、アーセナルのバランスを崩して、前進しやすい状況を作っていた。
ジャカのパスの詳細
※緑:成功、赤:失敗
引用:Arsenal公式
一方、アーセナルのビルドアップでキープレイヤーとなるべきジャカであるが、持ち味の精度の高いロングパスを活かしたサイドチェンジや前線への対角線のパスはほとんどなく、効果的な展開はできなかった。もちろん、ジャカ自身の問題と言うよりは、リバプールの組織的な守備に対するアーセナルの組織的なポジショニングの問題と言えるだろう。
防ぎようのないリバプールの質の高さ
リーグ戦無敗で独走モードに入りつつあるリバプールは、メンバーが揃っていてコンディションが良ければ、止められるチームが無いかもしれない。
この試合のように、
- GKと最終ラインのパス精度が高い ⇒ 前からプレスをかけて自由にさせたくない
- 前線の選手のスピードがある ⇒ ラインを高くするのはリスキー
となってしまうと、中盤が空洞化し、ポジションの流動性も相まって、簡単に前進を許してしまう。特に、リバプールの後方からのパス精度が高いだけでなく、そのパスがピンポイントで通らなくてもセカンドボールを回収すればよいという発想であるため、一気に選手が密集してボールに奪って速攻を仕掛けられる点が非常に脅威である。
これに対しては、「①完全に引いて守る」、「②ラインを高くして全体でハイプレス」のどちらかしかないだろう。
「①完全に引いて守る」では、リバプールの後方の選手たちの高精度のパスを跳ね返し続け、さらにサイドからのドリブル突破を防ぎ切る必要がある。また、引いて守る中で、ファン・ダイクやアリソンらを相手にゴールを奪うのは至難の業となるだろう。
「②ラインを高くして全体でハイプレス」では、この試合のアーセナルの先制点のように、前からボールを奪って速攻で仕掛ける形が理想形であると言える。しかし、コンパクトな陣形の中でのトランジションでリバプール相手に上回り続けるのは困難であり、CB裏のスペースへのロングパスからのカウンターの脅威にもさらされ続けることになる。一番厄介なのはアリソンのロングフィードの精度の高さであり、完全に抑えるにはここも含めてプレスをかけ続ける必要があり、それにより発生するどこかの数的不利さえもカバーする必要がある。
前からプレスをかけられる走れる選手たちを並べ、DFラインはハーフウェイライン近くまで上げ、前線からリバプールのDFラインとGKにプレスをかけ続け、スペースへのロングフィードを出されたらクリバリ級のCBを3枚くらい並べて走力とパワーで封じ込めるしか勝ち目が無いように思える。これは無理だわ。
苦しい展開ながら一定のパフォーマンスを見せたイウォビとナイルズ
リバプールとの力の差を感じつつも、前回の善戦を踏まえると、アーセナルもベストメンバーが揃っていればもう少しできた可能性もある。そして、この試合でも、イウォビやナイルズは一定のクオリティーを見せていたと言えるだろう。
好調なパフォーマンスを見せ続けてレギュラークラスになっているイウォビは、この試合でもキープ力やキレのあるドリブルで前線での起点となっていた。リバプールの攻撃を警戒してコラシナツの攻撃参加が少なくなったものの、左サイドからの攻撃は可能性を見出す数少ないポイントであった。
また、珍しく前目で起用されたナイルズは、守備でのアップダウンを期待されての起用だったかもしれないものの、このビッグマッチの先制点という形でトップチーム初ゴールを挙げたのみならず、前線でボールを受けると、ロバートソンを突破してクロスを上げる場面も数回作っていた。
ムヒタリアンの長期離脱、エジルの低調などの中、イウォビとナイルズは今後の攻撃陣の鍵を握る存在になるかもしれない。
いまだ多くの負傷者を抱える中、アーセナルは再浮上できるか
直近の公式戦5試合で1勝1分3敗という苦しい流れが続いており、いまだ負傷者を多く抱えるアーセナルであるが、再浮上することはできるだろうか。年明けには怪我人も徐々に戻ってくるはずであり、冬の移籍市場でも動くことは間違いないだろう。好転しない采配が続いてしまっているエメリがどのように立て直すのか注目である。
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