【大島のパス分析】よりアグレッシブに【第8節 川崎フロンターレvs湘南ベルマーレ】
湘南戦では、前節・鳥栖戦に続きフル出場を果たした大島。この試合でも憲剛と守田が欠場する中でチームの攻撃を牽引し、1点目の起点となるパスも出してチームの連勝に貢献。
この試合では、ボランチの相方が前節の下田から田中碧に変わり、また、4-4-2ながらも実質4-3-3のような形で大島・田中・家長の3センター、もしくは、大島・家長のダブルボランチに田中のトップ下のような位置関係でビルドアップするシーンが多くなった。
これにより、パス本数・パス成功数ともに家長がチームトップになったものの、攻撃における大島の影響力は大きかったと感じる人は多いだろう。
【家長】116/124本(93.5%)
【大島】105/116本(90.5%)
引用:SofaScore
今回も大島のパスを分析することで大島の凄さの言語化に挑戦してみる。
前節・鳥栖戦の分析結果はこちら
”メトロノーム”大島のパスを分析してみた【第7節 サガン鳥栖vs川崎フロンターレ】
※湘南戦の試合内容については、他の方のマッチレビューで確認してください。
「監督コメントから読み解く神奈川ダービー」~2019.4.19 J1 第8節 川崎フロンターレ×湘南ベルマーレ レビュー
【マッチレビュー】 君たちはどう崩すか 2019年J1リーグ第8節 川崎フロンターレ×湘南ベルマーレ
Contents
【分析方法】”パスを出した足”を新たに追加
湘南戦の大島の各パスについて、以下の9つの観点でデータを取っていく。
(ヘディングによるパスは含まず、キックによるパスのみをカウントする。)
- ①パスを出した時間(試合時間)
- ②パスを出した位置(立ち位置)
- ③パスを出した先
- ④パスを受けた選手
- ⑤パスの成功/失敗
- ⑥パスの種類(グラウンダー、浮き球)
- ⑦パス前の動作(トラップ→パス、ダイレクトパス)
- ⑧パスの意図(つなぎ、展開・縦パス、裏へ)
- ⑨パスを出した足(右足、左足) ※NEW
前回の分析にて、『左足を使う選択肢があることで、味方からのパスの精度や出したいパスコース、パスのタイミングなどに応じたより的確な選択ができる』という仮説を立てたため、今回から「パスを出した足」を集計する項目として追加。
「②パスを出した位置」と「③パスを出した先」は、前回同様、ピッチをエリアで30分割してざっくりと位置を特定。
ピッチをエリアで30分割
また、「⑧パスの意図」については、完全に主観で以下のように分類。こちらも前回と変わらず。
- 【つなぎ】定位置攻撃時の近い距離のパス
- 【展開・縦パス】サイドチェンジやサイド前方へのパスや縦パス
- 【裏へ】CB裏のスペースを狙ったスルーパス
【サマリー】各データの割合と前節との比較
湘南戦での大島のパス本数は全部で110本。(手動の集計のため、SofaScoreの数値とは若干異なる)
パスの成功/失敗
失敗したのは5本。パス成功率は95.5%。
パス成功率が前節の鳥栖戦の88%から大幅に上昇しているものの、この試合ではパス本数自体が大きく増えており、相手を揺さぶるためのショートパスが増えたことが影響していると考えられる。
パスを出した足(右足、左足)
右利きの大島であるが、右足が89本で全体の80.9%であるのに対し、左足は21本で全体の19.1%。
全体の約2割のパスを左足で出しているのは少し多いように感じられる。左足のパスをどれほど効果的に使っているかについての分析内容は後述。
パス前の動作(トラップ→パス、ダイレクトパス)
【ダイレクトパス】が27本で全体の24.5%
前節は22本で全体の26%でであったため、割合はそれほど変わらず。本数自体は増えている。
パスの種類(グラウンダーパス、浮き球)
【グラウンダーパス】が94本で全体の85.5%。前節は78本で全体の92%。
【浮き球】が16本で全体の14.5%。前節は7本で全体の8%。
前節よりも明らかに浮き球のパスが増加。さらに、浮き球16本のうち10本が裏のスペースを狙ったパスであった。
パスの意図(つなぎ、展開・縦パス、裏へ)
【展開・縦パス】が11本で全体の10%。前節は16本で全体の19%。
【裏へ】が12本で全体の10.9%。前節は6本で全体の7%。
【裏へ】のパスが前節の2倍に増加。大島自身が裏へのパスの意識を強めたとも考えられるし、チームとして裏をより狙う意図があったとも考えられる。
【分析】よりファイナルサードへ絡んでいった大島のパス
大島のパスの「パスを出した位置」と「パスを出した先」をそれぞれ分析してみる。
大島がパスを”出したときの立ち位置”
まず、「大島がパスを出したときの立ち位置」をエリアごとにカウントし、ヒートマップのような形で表現。各エリアの数字はそのエリアでのパス本数を表す。
(上)前節・鳥栖戦、(下)湘南戦
前節よりも両サイド含めて幅広い位置からパスを出しており、より敵陣内でのパスも多くなっている。
ミドルゾーンでブロックを作られてそれほど押し込みきれなかった鳥栖戦と、特に前半に完全に押し込んだ湘南戦の違いが明確に出ていると言えるだろう。
さらに、この試合では実質、大島・田中・家長の3センターのような形でボールを回す戦い方をしていたことから、大島が中央低めを離れてアクセントを付けようとする動きも見られたことで、より幅広い位置でパスを出すことになったと考えられる。
この試合での大島の走行距離がチーム2位の11.480km(引用:Jleague.jp)であったこともそれを裏付けているだろう。
※前節・鳥栖戦は、チーム3位の10.624km(引用:Jleague.jp)
大島がパスを”出した先”
「大島がパスを出した先(受け手が受け取った位置)」についても同様に分析。
(上)前節・鳥栖戦、(下)湘南戦
「パスを出した位置」と同様に、パスを出した先も敵陣内がかなり多くなっており、よりチャンスに直結しやすいパスや完全に押し込んでる状態でのパスが多かったと考えられるだろう。
また、前節は左右のサイドで特徴が異なっていたが、今節はそれほど左右のサイドで差が出ず。
ピッチ中央では左サイド寄りのほうが多くなっているが、相手の守備ブロックの手前でボールを回す際、家長が右ボランチ、大島が左ボランチのような立ち位置になるシーンが多かったためであると考えられる。
【分析】フロンターレの攻撃への大島のパスの影響度は?
次に、試合全体の流れ、フロンターレの攻撃への大島のパスの影響度を図るため、「アタックモーメンタム(引用:SofaScore)」と「大島の時間帯別パス本数」を比較。
前節は大島の時間帯別パス本数とフロンターレの優勢な時間帯がかなりリンクしていたが、今節はそれほどリンクしておらず。
家長の方がパス本数が多かったため、家長の方が試合の優勢に影響していたかもしれない。しかし、チャンスに直結するチャレンジのパスは大島の方が明らかに多かった印象が強い。
【分析】大島のパスはどのくらいアクセントになっている?
大島のパスがどのくらいアクセントになっていたかを確認するため、攻撃のスイッチを入れるパス(【展開・縦パス】【裏へ】に分類したパス)に絞り、その「位置」と「成功/失敗」、「パス前の動作(【ダイレクトパス】、【トラップ→パス】)」を表現して分析してみる。
(上)前節・鳥栖戦、(下)湘南戦
長距離のパスに失敗はあるものの、前節以上にゴール近くへのパスを多く成功させており、よりチャンスに繋がるパスを出していたことがわかる。
前回述べた『スイッチを入れる時にダイレクトパスが多いのでは』という仮説について確認してみる。スイッチを入れるパスのうちダイレクトパスが占める割合は以下の通り。
【鳥栖戦】22本中7本
【湘南戦】23本中7本
ほぼ変わらず。やはり、これは他の選手のデータと比較しないと評価がなかなか難しいと言えるだろう。
攻撃のアクセントという意味では、パスを出した先やパスの距離は重要であるものの、よりシンプルに評価しやすくするためには、せんだいしろーさんの「4レイヤー理論」の考え方を取り入れたほうがいいのではないかと思った。
「4レイヤー理論」はざっくり言うと、一般的に3本のラインで守備ブロックを形成することが多い現代サッカーにおいて、位置(深さ)を動的な4つのレイヤー(①相手FWの正面、②FWとMFの間、③MFとDFの間、④DF背中)で定義するもの。
今でも「パスの意図」として【展開・縦パス】と【裏へ】を集計しているものの、どのレイヤーからどのレイヤーへのパスであったかを集計することにより、より明確に効果的なパスであったかどうかを評価できるだろう。特に、効果的と考えられるレイヤーをスキップしたパス(守備ブロックのラインを越えたパス)も評価することができるようになる。これは次回から取り入れることを検討したい。
【分析】左足のパスはどのように使ってる?
大島が左足でのパスもスムーズに出せることが効果的なのではないかという点を分析するため、左足のパス21本の詳細を確認してみる。
左足のパスは、後方へのパスが多く、ビルドアップ時にCBに戻すシーンで使うことが多いと考えられる。
その精度を見ると、21本のうち失敗したのは1本のみであり、しかも裏のスペースを狙ったチャレンジのパスである。
また、左足のパス21本のうちダイレクトパスが10本である。利き足ではない足でのダイレクトパスをスムーズかつ正確に行うことで攻撃のテンポを緩めずに繋ぐことができ、その後の展開・前進をスムーズにさせることに貢献しているのではないだろうか。
これも他の選手のデータと比較することで凄さがわかるかもしれない。
【まとめ】こんなにもタイミングの良い大島の活躍
大島復帰後に鳥栖戦、湘南戦と連勝し、大島のパスを分析しがいのある流れが続いている。大島不在の試合や大島が封じ込まれた試合は分析対象としては興味深いものの、フロンターレサポーターとしては複雑な気持ちであるとともに、現状の活躍を踏まえるとやはり大島は怪我以外では外せない存在なのではないだろうか。
2試合を分析して感じたことは、パスの割合(成功/失敗、右足/左足、グラウンダーパス/浮き球パス、トラップ→パス/ダイレクトパス)自体にはあまり意味が無いかもしれないということ。なぜなら、フロンターレは相手の守備を揺さぶるためのパスがおのずと多くなるため、試合ごとのその多さの違いによって割合が大きく影響されるからである。
揺さぶる時間が長くなればなるほど(崩せない場合、リード時のゲームコントロールの場合)、パス成功率は高くなり、右足でのパスは多くなり、グラウンダーパスの割合は多くなると考えられる。
どちらかと言えば、【左足でのパス】、【浮き球のパス】、【ダイレクトパス】をどのように活用していたかを深掘りするほうが重要そうである。
また、大島の特徴として新たに気づいたことは、トラップせずにダイレクトパスを出す場合に、その場でパスを出す他に、ボールの進行方向に一緒に動いてからパスを出すプレーを結構使っていること。このプレーは「フェイクバック」と呼ぶらしい。
これをうまく使うことで、対峙するDFのプレスを交わしたり、新たなパスコースを作っていると考えられる。ここにも大島のプレーが効果的である秘密が隠されていそうである。
次回分析時の改善事項
- 「パス前の動作」に【フェイクバック】を追加
- パスの出した位置とパスを出した先の「レイヤー」を集計
今後も分析内容をブラッシュアップしていきながら継続していくことで、大島の凄さの言語化に挑戦していきたい。
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