Jリーグ屈指のボランチの凄さとは【大島とサンペールのパス分析&比較:第9節 ヴィッセル神戸vs川崎フロンターレ】

2019年5月4日Jリーグ

神戸のホームに乗り込んだフロンターレは怪我人続出。ACLで復帰した中村憲剛が再び離脱し、その他にも阿部、家長、守田、奈良、車屋という主力メンバーを軒並み欠く中でこの試合に臨んだ。しかし、それでも頼れる男は残っていた。No10・大島僚太が4-4-2のダブルボランチの一角として出場。

対する神戸はリージョ監督退任後の2試合目。ポドルスキが欠場するものの、ビジャが復帰し、ビジャ、イニエスタ、サンペールが並び立つ4-2-3-1の布陣。

この注目の試合は、2対1でアウェイのフロンターレが勝利。

チームや環境へのフィット度合いには雲泥の差があるものの、ともにダブルボランチの一角としてスタメン出場した大島僚太とサンペールのパスを分析して比較することで、両選手の特徴やパフォーマンスを読み解くことに挑戦する。

これまでのパス分析記事はこちら
【大島のパス分析】よりアグレッシブに【第8節 川崎フロンターレvs湘南ベルマーレ】

”メトロノーム”大島のパスを分析してみた【第7節 サガン鳥栖vs川崎フロンターレ】

 

“大人の戦い方”の中でも存在感を発揮

フロンターレは主力不在の中で割り切った戦い方をし、ボール保持にこだわらず、特に2点リードで迎えた後半には前線へのロングボールを顕著に増やしていった。結果としてボール保持率40%パス本数405本(引用:SofaScore)というフロンターレとしては異例のスタッツになった。

(縦軸:パス本数、横軸:試合時間)

時間帯別パス本数を見ても、後半に大島のパスが激減していることがわかるだろう。

そして、フロンターレの割り切った戦い方によって神戸のボール保持が徐々に増えていき、サンペールのパスのペースも後半に入って急激に増えた。しかし、満足のいくパフォーマンスを見せられずに67分に三田と交代。皮肉にも、代わって入った三田が効果的なプレーをすることで神戸がペースを掴み、1点追い上げる展開まで持ち込んだ。

 

では、具体的に大島とサンペールのパスを比較してみたい。

フル出場した大島67分で交代したサンペールであるが、パス本数はそれほど大差なく、それぞれ63本52本。パス成功率では大島のほうが若干上回る。直近2試合の大島のパス本数が85本110本であったことから、この試合での大島のパス本数は明らかに少なく、ここにもフロンターレが割り切った戦い方をしたことが表れている。

また、大島とサンペールはともに右利きの選手であるが、サンペールの左足でのパスは全体の11.5%であるのに対し、大島は全体の22.2%であった。大島は前節・湘南戦でも左足のパスが19.1%であった。比較対象を増やしていく必要はあるものの、やはり大島は利き足ではない足でのパスをうまく使っていると言えるのかもしれない。

もう少し詳細を見ていくと、注目すべきなのは大島の「パスの意図」の割合

チームとしてボール保持よりもよりダイレクトにゴールを目指す戦い方をしていたのが大島のパスにも表れており、全体の33.3%が「展開・縦パス」であり、全体の9.5%が「裏」を狙うパスであった。合わせて42.8%のパス局面を変えたり攻撃のスイッチを入れようとするパスであったということになる。

一方のサンペールは、「展開・縦パス」と「裏へ」のパスを合わせても全体の17.3%にとどまり、よりアグレッシブなパスを出していたのは大島であったと言える。

また、パス分析をした直近2試合での大島のスイッチを入れるパス(「展開・縦パス」と「裏へ」のパス)は、鳥栖戦で全体の約26%、湘南戦で全体の約21%であったことから、神戸戦での42.8%という割合は大島としても極めて多いものであったと言える。

フロンターレらしくボール保持する展開でなくても大島のパスがチームの攻撃を牽引することが如実に表れていると言えるだろう。

 

「レイヤー」による評価でわかるパスの効果的な度合い

では、具体的に両者のパスはどれほど効果的だったのか。エリアの観点で比較してみたい。

「パスを出した位置」を見てみると、サンペールはほとんどのパスを自陣側の中央から出しているのが印象的である。これは、サンペールがCB間に下りて最後方からのパス回しに関与する役割を担っていたからである。

逆に大島のパスを見ると、ベースはピッチ中央であるものの、敵陣内やサイドからのパスも出しており、自陣と敵陣でのパスの割合はほぼ半々である。

フロンターレの方がチームとしてより押し込んでいた時間が多かった、あるいは、大島が積極的に前線に絡んでいったと言えるだろう。

「パスを出した先」で比較してみても、大島がゴール前へ多くのパスを出しているのに対し、サンペールはハーフウェイライン付近へのパスが多いことがわかる。

これらのデータはどれだけゴールに近い位置にパスを出していたかはわかるものの、DFがどこにいた状態でのパスかはわからないため、パスの効果的な度合いは若干判断しにくい。

 

そこで、「レイヤー」の考えでさらにパスを評価してみる。

守備側は3本のラインで守備ブロックを形成することが多いため、その奥行き(3本のラインのどこか)によってエリアを「第1レイヤー」~「第4レイヤー」として定義する。当然ながら守備ブロックは常に動くため、動的に変わるエリアを同じ基準で評価することができるのがこの考え方の良い点である。
(わかりやすくするために図中では”FW-MF間”などと書いているが、実際には選手のポジションは関係ない。あくまでも3本のラインの守備ブロックのうちのどのエリアであるか。)

※「レイヤー」の考え方の詳細はこちら

 

このレイヤーの考え方を使い、「パスを出した位置」と「パスを出した先(受け手が受けた位置)」がどのレイヤーであったかを確認することで、パスの効果的な度合いを評価していく。
※守備ブロックが整っていない状態(攻守の切替時など)でのパスは、レイヤーの観点では集計対象外とする。

ゴール方向に向かってレイヤーをまたぐパス(例:第1レイヤーから第2レイヤーへのパス)は、守備ブロックのラインを越えるパスとなるため、ゴールに近付くことになり、局面を変えるパスとも捉えることができ、パスの中でも効果的なものとして評価することができる。

 

これらを踏まえ、大島とサンペールのレイヤーごとのパス本数をチェックしてみる。

(カッコ内の数字はそのレイヤーのパス本数のうちの失敗した数)

これを見ると、両者がどの位置で多くプレーに関与していたかが一目瞭然だろう。サンペールはボランチながらビルドアップ時はCB間に下りてパスを展開する役割を担っていたため、第1レイヤー内(守備側FWの手前)でのパスが極端に多くなっている。一方の大島は下がることなくボールに関与するプレーを見せていたため、第2レイヤー内(守備側FWとMFのあいだ)でのパスが多くなっている

また、レイヤーをまたぐパス(図内の赤矢印)に注目してみると、大島のほうがレイヤーをまたぐパスを圧倒的に多く出していることがわかる。両者ともに第4レイヤーへのパスはすべて失敗しているものの、成功すればチャンスもしくは決定機を作るパスとなるため、成功率が低くなるのは致し方ない。

大島が第2レイヤーから第3レイヤーへのパス(守備ブロックの中盤を越えるパス)を12本も成功させていることからも、大島のほうがよりチームの攻撃を牽引する効果的なパスを出していたことは明らかといえるだろう。

 

役割やフィット度合いの差なのか、スキルの差なのか

大島とサンペールのパスに注目して見続けて感じたことは、やはり考える時間の差だろうか。

Embed from Getty Images 

もともとのプレースタイルなのかもしれないが、サンペールはボールを持った時にまずは自分で少しドリブルして持ち上がろうとするシーンが多かったのが印象的であった。しかし、その持ち上がりが必ずしも効果的とは言えず、余計にパスコースが無くなって窮屈になることもあるように見えた。もちろん、まだチームにフィットしきれていないことで味方との意思疎通ができておらず、味方の動き出しがイメージ通りでなかったりすることも影響しているだろう。

そして、サンペールに課している役割は適切なのだろうか。CB間に下りて左右のCBに横パスを出している場面がほとんどで、それはサンペールにしかできない役割には見えなかった。それならば、せめて2CBの左右のどちらかの脇に下りて、持ち上がる役割を与えたほうが良くないだろうか。もしくはシンプルに山口蛍との縦関係を逆にすべきでは。ボールロスト時の守備という点を踏まえても余計にそう思う。サンペールのプレーを見たのがこの試合が初めてであるため詳しくない中で言うのは不適切かもしれないが、やはりバルセロナから来た選手ということで楽しみな気持ちを持って見たものの、全くインパクトの残らない(下手すると悪い意味でインパクトが残った)パフォーマンスであった。

Embed from Getty Images 

逆に大島の場合は、ボールを受ける前の状況判断が特段優れているように見え、ボールを持った時には最終確認としてパスを狙っている先の最新状況を軽く見ているだけのような印象を受ける。そして、ほとんど無駄な予備動作(左右の足で持ち替えたり、体の向きを変えたり)が無く、左右の足やトラップorダイレクトorフェイクバックなどをボールの位置と出したい方向に応じて使い分けている。相手の守備のポジショニングがひどすぎて簡単に縦パスが通ってしまっているように見えてしまうほど、一連の動きをスムーズにそつなくこなしている。さらに、味方との意思疎通ができているシーンが多いこともあって、味方もパスコースが狭くてもパスが出てくることを信じて受けに顔を出したり裏を狙ったりしているように見えた。

チームへのフィットという面でサンペールと差があるのは当然ながら、このパフォーマンスの差はそれだけが原因ではないように思える。Jリーグ屈指のボランチは、バルセロナ育ちのMFに全く劣らないスキルを持っていると言えるのではないだろうか。今後もいろいろな選手と比較していくことで、大島の凄さを解明していきたい。

その他のパス分析記事はこちら
守田の現在地。大島との差とは【守田のパス分析:第10節 川崎フロンターレvsベガルタ仙台】

【大島のパス分析】よりアグレッシブに【第8節 川崎フロンターレvs湘南ベルマーレ】

”メトロノーム”大島のパスを分析してみた【第7節 サガン鳥栖vs川崎フロンターレ】

noteもやってます。よかったら見てください!
https://note.mu/polestar222