極上の試合を彩った大島とシミッチの凄みとは【パス分析:第12節 川崎フロンターレvs名古屋グランパス】

2019年5月20日川崎フロンターレ

パス分析(川崎フロンターレvs名古屋グランパス)_大島とシミッチ

現・風間vs元・風間、ともにパスを繋いでゲームをコントロールする攻撃的志向を持ち、そして上位を争う直接対決。注目ポイント満載となった川崎フロンターレ対名古屋グランパスの一戦。

結果は1対1の引き分けながら、両チームともにハイレベルなパフォーマンスを見せ、スタンドの一部ではスタンディングオベーションが起こるほどであった。

そしてその試合で期待に沿うプレーを見せたのが、ゲームをコントロールする上でキープレイヤーとなるボランチの大島とシミッチ。

リーグ最高レベルのボランチの2人がこの極上の試合でどんな輝きを見せたのか、2人のパスを分析することで読み解いてみたい。

 

前後半で明暗が分かれた両者のパフォーマンス

両チームともにDFラインを高く上げてピッチ中央でコンパクトな守備ブロックを作ったことで、かなり狭いスペースの中での攻防となる時間帯が多かったこの試合。

序盤にペースを掴んだのはグランパスであったが、ホームのフロンターレも徐々にペースを掴むように。しかし先にゴールを奪ったのはグランパス。前半終了間際にマテウスのスーパーゴールが決まって先制。ホームでビハインドを背負ったフロンターレはグランパスのコンパクトな守備を打破するために55分にダミアンを投入して前線の枚数を増やす。その甲斐もあってダミアンのゴールで同点に追いつくが、後半の多くの時間帯で前線へのシンプルなボールを増やすフロンターレに対してグランパスがボールを支配する内容になった。

大島とシミッチのパス分析(時間帯別パス本数)2019 J1 第12節 川崎フロンターレvs名古屋グランパス

(縦軸:1分あたりのパス本数、横軸:時間)

試合の流れと両者の時間帯別パス本数を見ると、過去の分析結果と同様、大島のパス本数とフロンターレの優勢度合いは傾向として比例していることがわかる。一方、今回初めて分析対象としたシミッチであるが、グランパスの優勢な時間帯とシミッチのパス本数も同じく比例しているように見受けられる。

そして一番気になるのは、前後半での違い前半は明らかに大島のパスが多く、後半は逆に明らかにシミッチのパスが多くなっている。さらに、大島は後半にパス本数が減ったにも関わらずパスの失敗が明らかに増えていることが目立つ。これはチームとして前線にダイレクトにボールを展開する狙いが強まり、繋ぐことよりもチャンスに直接結びつけようとするパスが増えたことが影響していると考えられる。

また、シミッチの前半のパス本数はわずか28本であったが後半は44本に増えた。前半終了間際のグランパスのリードによりフロンターレが布陣と狙いを変更せざるをえなくなり、それによりグランパスのボールの支配が増す中でシミッチの関与も増えていったと考えられるだろう。

パス分析の比較サマリー(川崎フロンターレvs名古屋グランパス)_大島とシミッチ

結果として、1試合トータルでグランパスがフロンターレのホームでボール試合率パス本数ともにフロンターレを上回ることに。そして、大島とシミッチはともにフル出場した中、パス本数はチームの総本数と比例するかのようにシミッチが大島を上回った

この試合での大島のパス成功率76.6%という数字は、これまでのパス分析の中でもダントツに低いものとなる(これまでの最低は清水戦の守田の83.1%)。ボール支配にこだわらず、ボール支配率が相手より下回ったのは第9節神戸戦でも同様であったが、神戸戦の大島のパス成功率は88.9%(パス63本)であったことからも、いかに76.6%という数字が低いものであるかがわかるだろう。グランパスのコンパクトな守備と素早い寄せに苦しんだことが表れている。

一方、シミッチのパス成功率は83.3%。ボランチとしては標準よりやや低い数字と言えるかもしれない。

そして特徴的なのは、パスを出した足の割合。左利きのシミッチは左足でのパスが93.1%。一般的に左利きの選手は左足専門のタイプが多い印象があるが、シミッチもそのタイプに当てはまる選手と言えるかもしれない。大島や守田が毎試合のように利き足でない足でのパスが20%前後であるのが多いと言えるかどうかは、今後も継続して研究していきたい。

パス分析の比較サマリー(川崎フロンターレvs名古屋グランパス)_大島とシミッチ

また、パスの種類ダイレクトパスの割合などにそれほど差はないが、浮き球パスの割合両者ともに20%を超えている。これまでのパス分析では約8%~17%であったのを踏まえると、かなり多いと言えるだろう。両チームともにコンパクトな守備ブロックを作った中での攻防となる中、両ボランチはスペースのない地上でパスを繋ぐことに固執せず、空中のスペースを使ってパスを届けることも意図的に狙っていたと考えられる。

そして一番特徴的なのが、シミッチの「展開・縦パス」の多さ大島の19本、29.7%はこれまでの傾向から見ると多い部類には入るものの、シミッチの29本、40.3%は群を抜いている数字。両チームともに相手の守備を揺さぶるために後方でパスを回す時間はそれほど多くなく、中盤ではより縦の意識を強くし、特にそのスイッチを入れる役になりやすい両者のプレー傾向がこの数値に表れていると言えるだろう。

また、大島はこの試合で計7本、DFラインの裏のスペースを狙ったパスを出しているが、7本中6本はダミアンが投入された55分以降のものである。さらに成功した(受け手に通った)パスはわずか1本であった。これも大島のパス成功率が低かった要因の一つと言えるだろう。

大島とシミッチのプレーエリアの違い

次に、大島とシミッチのプレーエリアの違いを見ていきたい。

大島のパス分析 2019 J1 第12節 川崎フロンターレvs名古屋グランパス

(カッコ内の数字はそのエリアのパス本数のうちの失敗した数)

大島は、ピッチ中央でのプレーの割合が多く、サイドに寄るシーンはいつもより少ない印象。全体の割合としては自陣側でのパスが多いものの、敵陣中央でのプレー関与が明らかに多い点が目立っている。

また、「パスを出した位置」のデータでは自陣から出したパスのミスの多さが気になるが、「パスを出した先」のデータを見るとそのほとんどが敵陣へのパスであり、決して自陣の低い位置でパスミスによりボールロストしているわけではないことがわかる。

シミッチのパス分析 2019 J1 第12節 川崎フロンターレvs名古屋グランパス

(カッコ内の数字はそのエリアのパス本数のうちの失敗した数)

対するシミッチは、ピッチの左半分に偏っていることが如実に表れている。また、敵陣内の割合が多く、グランパスがボール保持でフロンターレを上回り、ゴール前に押し込む時間帯を作れていたことが影響していると言えるだろう。

 

大島とシミッチのアクセントを付けるエリアの違い

攻撃のスイッチを入れるような大きな展開や縦パスを多く出していた大島とシミッチ(大島:19本、シミッチ:29本)。

大島とシミッチのパス分析(展開・縦パス)2019 J1 第12節 川崎フロンターレvs名古屋グランパス

傾向として、大島はピッチ中央でアクセントを付けようとするパスをほとんど成功させているのに対し、シミッチは自陣やピッチ中央でアクセントを付けようとするパスの約半分を失敗させている。逆にシミッチは敵陣ゴール近くへのパスのほとんどを成功させている。

全体のパス成功率は高くなかった大島であるが、ピッチ中央の狭いスペースを突破するシーンがいくつか印象的であったのを裏付けるようなデータとなっている。逆にシミッチは敵陣内でよりチャンスにつなげる局面で正確なパスを発揮してアクセントを付ける存在になっていたと言えるだろう。

 

では、今度は「レイヤー」の考え方を使って、両者がどのような局面でパスを出していたのかを評価してみたい。ゴールまでの絶対的な近さではなく、守備ブロックの位置を考慮して動的に評価できるのがレイヤーによるパス分析である。
(対象となるパスは、相手の守備ブロックが整っている状況のパスのみ。攻守の切替時やセットプレーの流れでのパスは含まない。)

※「レイヤー」の詳細については過去記事内参照。
Jリーグ屈指のボランチの凄さとは【大島とサンペールのパス分析&比較:第9節 ヴィッセル神戸vs川崎フロンターレ】

大島とシミッチのパス分析(レイヤー)2019 J1 第12節 川崎フロンターレvs名古屋グランパス

(カッコ内の数字はそのレイヤーのパス本数のうちの失敗した数)

両者ともに、第3レイヤーへのパス(守備ブロックの中盤を越えるパス)を多く出していることからも、アクセントを付けるプレーを見せていたことがわかるだろう。さらに、両者ともに失敗したパスのほとんどがレイヤーをまたぐパスであり、同じレイヤー内でのパスの失敗は両者ともに1本のみ。ハイレベルな試合を支えた両者のパスの正確性が表れている。

また、大島が第4レイヤー(DFラインの裏)へのパスを一定数狙っていたのがこのデータからもわかる。さきほどの「展開・縦パス」のデータでは、シミッチはゴール近くへのアクセントを付けるパスを多く成功させていたものの、これを見ると決して第4レイヤーへのパスではないことがわかる。直接決定機を作るパスではなく、シャビエルやアーリアジャスールらがDFライン近くでいい形でボールを受けるための役割をシミッチが担っていると言えるだろう。

グランパスの攻守の切替時の要は”○ー○○○○ー○”か?

試合を見ていて印象に残ったのはシミッチからアーリアジャスールへのパス。空いたスペースにうまく顔を出すアーリアジャスールをシミッチは見逃さずにパスを出しているシーンが多かったように見えた。

この試合でシミッチがパスを出した相手は、最多が吉田の15回、続いて丸山とアーリアジャスールの10回。吉田や丸山は左サイド寄りでポジションが近いためにパス交換が多くなるのは必然であるものの、ポジション上それほど近くないアーリアジャスールへのパスが多いのは、明らかに狙いがあると考えられる。試合を見ていて気になったのは、攻守の切替時にシミッチからアーリアジャスールへ縦パスを入れて起点を前に作ってから全体を前に押し上げようとするプレー。

シミッチのパス分析(アーリアジャスールへのパス)2019 J1 第12節 川崎フロンターレvs名古屋グランパス

シミッチからアーリアジャスールへのパス10本を具体的に見てみると、自陣深くから主に浮き球を使ってアーリアジャスールへパスを届けようとしている狙いが伺える。成功したのは約半分であるものの、攻守の切替時に前進する1つの形として狙っていたのはほぼ間違いないだろう。

 

違いを生み出せるボランチ、大島とシミッチ

この日の大島は普段通り中央の狭いスペースの中で正確なパスをつなげるだけでなく、自ら中央のエリアを突破していくプレーも見せ、パスだけの選手ではないことを知らしめたと思う。一方のシミッチは、特に前半はあまりボールにも関与せず、試合全体を見ても特別目立っていないようにも思えた。しかし、パス分析をするために試合を見返すと、守備ブロックを突破する”さりげない正確な縦パス”を何度も通しており、グランパスの攻撃のスイッチを入れる役割を十分に果たしていることがわかった。

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パスのデータとしては、この試合でより際立っていたのはシミッチかもしれない。しかし、ダブルタッチなどを駆使して中盤の密集地帯を突破していく大島のプレーは強烈な印象を残した。残念ながらその凄さはパスのデータには表れないが、スタッツを確認するとドリブル成功数は3/3回(引用元:SofaScore)であった。回数も成功数も大島にとっては珍しい数字のように思える。
(ちなみに、ドリブル成功数の両チームトップは前田直輝の4/4回。出場わずか10分で異次元の数字だから比較したくなかった。。。)

 

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そしてシミッチは、巧みな身のこなしと左足での正確なボールコントロールで守備側が飛び込めない間合いを作っていたのはさすがであった。左足からパスが出てくるのがわかっていたとしても、そう簡単に防げるものではないだろう。今シーズンから加入したのが信じられないほどすでに欠かせない存在になっているが、味方との連携にまだ向上の余地があるのだとしたら、本当に怖ろしい存在である。

 

今後、大島とシミッチはどれほどのレベルに到達するのだろうか。次回、8月の名古屋ホームでの再戦で2人がどんなプレーを見せるのか、今から楽しみで仕方がない。

 

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