Merci Arsene ~パス&ムーブで世界を魅了したヴェンゲル~

プレミアリーグ

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世界一美しいパス&ムーブのサッカー

それまでロングボールをメインとする戦術が多かったプレミアリーグに”パス&ムーブ”の戦術を持ち込んでリーグを席巻し、03-04シーズンには前人未到の無敗優勝を達成したアーセン・ヴェンゲル
私はそれまで中田英寿を見るためにセリエAの試合を中心に見ていたものの、次第に海外サッカーの情報に触れるにつれて、アーセナルというチームを知り、02年頃からアーセナルの試合を見るようになる。

選手もボールも流れるように動き、ダイレクトにダイナミックにスピーディーな展開で、最後は前線のアンリとベルカンプという最強の2トップが冷静にゴールにボールを流し込む。完全にアーセナルのサッカーに私は魅了された。

偉大なるインビンシブルズたちが去った後も、大物選手を獲得せず、若手の育成とチームのスタイルに合う選手の発掘を中心に、パス&ムーブのサッカーを志向し続けたヴェンゲル。セスク、ロシツキー、フレブ、ナスリ、ウィルシャー、カソルラなど、アーセナルのスタイルに合う選手を常に揃えながらも、時に攻撃的すぎる志向やここぞという試合での勝負弱さなど、リーグ優勝や欧州タイトルには届かない時代が続いた。
しかし、そのヴェンゲルの変わらないスタイルがあったからこそ、一度アーセナルにハマったら抜け出せない、中毒的な魅力があった。

過去記事:ヴェンゲルの『パス&ムーブ』の志向は変わってしまったのか【前編】

過去記事:ヴェンゲルの『パス&ムーブ』の志向は変わってしまったのか【後編】

大物選手の獲得とそれに相反する低迷

その後、無冠時代が続くアーセナルは、エジルやサンチェスなど、ワールドクラスの選手を獲得するようになるものの、プレミアのライバルチームたちが世界中の有力選手や有力監督を揃えて戦術的にも進化し続ける中、どこか歯車の合わないチームはリーグで4位以内をキープすることが精一杯になり、ついにはトッテナムの躍進などもあり、CL出場権も逃すこととなる。

低迷しながらも、ファンはアーセナルらしい攻撃的で魅力的なフットボールを繰り広げるシーンをどこかで待ち望んでいたが、カソルラの長期離脱なども影響し、エジルやサンチェスなどの個人頼みな攻撃へと変わっていった。まったく機能せずにあっさりと下位チームに敗戦するなどを繰り返し、次第に”WENGER OUT”と言う声が大きくなっていった。そして、最後の希望であったEL優勝にも手が届かず、とうとうヴェンゲルのアーセナルでの22年という長期政権は幕を下ろすこととなる。

アーセナル=ヴェンゲル、ヴェンゲル=アーセナル

”Arsenal”というチームを率いる”Arsene” Wengerという図式には、運命的なものを感じざるを得ないし、他チームが1~2年で監督交代する近年において、22年も同じチームを指揮し続けたのはとんでもない偉業である。もはや、アーセナル=ヴェンゲルであり、ヴェンゲル=アーセナル、になっていたと言っても過言は無い。

低迷が続いて空席が目立つようになったエミレーツスタジアムであるが、ヴェンゲルのホーム最終戦となったバーンリー戦では、6万人のファンがヴェンゲルに感謝を示す赤いTシャツを来て、ヴェンゲルの最後の勇姿を見送り、感動的なセレモニーでその功績を讃えた。こんなに素晴らしい退任セレモニーで見送られる監督は今後出てくるだろうか。

ヴェンゲルのいなくなった後のアーセナルを素直に応援できるのだろうか。後任監督によっては、ヴェンゲルが築いてきた”パス&ムーブ”のスタイルが踏襲されず、勝利至上主義になるかもしれない。タイトルには近づくかもしれないが、それで長年アーセナルを見てきたファンは納得するだろうか。ヴェンゲルが作り上げてきたクラブの哲学を引き継ぎつつ、勝負強さや戦術の柔軟性を加えることで、魅力的なスタイルでタイトルを勝ち取るようなクラブになることをアーセナルファンは誰しも願っているはずである。

”パス&ムーブ”のスタイルで魅了したかと思えば、自ら逆境に追い込んでからの逆転を期待させる刺激的な展開を披露し、まるでジョークのように”4位”を定位置とし、毎試合のようにファスナーを閉められない、そんな愛すべきアーセン・ヴェンゲル。本当にありがとう。
そして私はあなたの築いたアーセナルというクラブを応援し続けたい。