香川と乾が強烈なアピール!柴崎も欠かせない存在に【日本代表/パラグアイ戦レビュー】
試合結果
2017/09/12 ロシアW杯前テストマッチ
日本 4-2 パラグアイ
32分 オスカル・ロメロ
51分 乾
63分 乾
77分 オウンゴール
90分 リチャル・オルティス
91分 香川
スターティングメンバー
スイス戦のスタメンから酒井高徳を除く10人を変更して臨んだパラグアイ戦。ガーナ戦、スイス戦で出番の少なかったメンバー中心となる。フォーメーションは4-2-3-1。香川がトップ下に入り、トップは岡崎。武藤は2列目右に入った。
インテンシティの低い試合であったが、4得点での勝利はプラス
ワールドカップに出ないパラグアイとの試合は明らかにスイス戦とはレベルの異なるものとなったが、これまでに出番のなかった選手のコンディションの確認という意味では一定の収穫があったか。さらに、主力と思われる西野監督お気に入りの選手たちを脅かすパフォーマンスを発揮したのは、香川、乾、柴崎の3人。相変わらずの2失点はいただけないが、最後のテストマッチを勝利で飾ったことは、本戦に臨むチームの雰囲気としてはプラスになっただろう。
1点目:香川と乾の”阿吽の呼吸”から生まれたゴール
香川が縦パスを受けるポジショニングを取るも、昌子から縦パスは出ず。昌子はそのまま前へ少し持ち出す。
左SBの酒井高徳のオーバーラップにパラグアイの右サイドの選手がつられて動こうとした背後で、乾が中央寄りにポジショニングをずらして縦パスをもらおうとし、さらに香川も中央寄りにポジショニングをずらして、別のパスコースを作る。
昌子は相手の中盤の重心がサイドに寄ったタイミングで香川に縦パスを出す。乾は前方のスペースを確認すると、香川にボールが渡る前に前方のスペースへ走り始める。
香川も乾の動きを察知し、ダイレクトで乾の前のスペースへボールを落とす。
香川は乾の背後を通ってPA左へ走る。岡崎、武藤もボールを受けるポジショニングを取る。これにより、乾は3つのパスコースを持つ。DFが複数のパスコースへの対応を強いられ、ポジショニングがあいまいになる。
乾はそのままDFが寄せきれなかったバイタルエリアのスペースに斜めに入っていきシュート角度を作り、カーブをかけたシュートをゴール右隅に突き刺した。
全体を通してパラグアイの選手の寄せが甘かった点はあるが、香川と乾が縦パスを受けられるポジショニングを常に意識し、昌子も積極的に縦パスを狙ったことが起点となったゴール。香川に縦パスが入っただけではすぐに相手DFに寄せられてしまうが、乾が近い距離でサポートし、かつスペースに走り込み、香川も長所であるダイレクトタッチでスペースに落としたことにより、チャンスを生み出した。乾がボールを持ったあとも、香川は止まることなく乾とクロスしてPA左に走り込み、岡崎や武藤もボールを受けられるポジショニングをとることで、乾に複数の選択肢を与える状況を作り出したことがゴールにつながった。
2点目:香川のスペースへの走り込みと落としからの乾のダイレクトシュート
右サイドでボールを奪い、狭いスペースをつないで酒井宏樹にボールが渡ると、前方でフリーになっていた武藤へパス。
岡崎はファーに逃げる動きをしてDFを引き連れ、香川は岡崎が空けたスペースへ走りこむ。
武藤から香川へボールが出たものの、香川が走りこんだスピードに対してボールが少しマイナスになり、香川はDFが寄せている状態で前を向くことを諦め、後ろにすらすことを選択。
香川がすらしたボールを後ろから走りこんだ乾がダイレクトでシュートし、GKの手をかすめながらゴール右隅に決めた。
武藤にボールを入った段階で、すぐにプレーに関与できる状態であったのは岡崎と香川。岡崎はボールを受けに近づくのではなく、ゴールを意識して、ファーに流れてクロスを待つポジショニングをとる。さらには、この動きによってニアのスペースが空き、香川がそこを認識して走りこんだ。武藤は香川の走り込みに合わせてパスを出したものの少しマイナスとなり、香川はDFに寄せられている状況を判断してキープではなく後ろに落とすことを選択。これを待っていたかのように乾が後ろからタイミングよく走り込み、ゴールが生まれた。
香川の「スペースで受ける動き」と「ダイレクトタッチでのプレー」は貴重なストロングポイント
日本代表がワールドカップのレベルの試合で得点を奪うためには、組織的な連動が不可欠であり、それを実現するためのポイントは、“縦パス"、”バイタルエリア”、”ダイレクトプレー”、”3人目の連動した動き”となる。それらを見事に実現したのが特に1点目のプレーだろう。
戦力的に劣る日本は試合の中でペースを握れる時間は限りなく少ないと考えられ、その中でもチャンスを作り出すためには、少ない人数でゴール前までボールを運ぶ必要がある。絶対的なストライカーやヘッダーがいないため、サイドからのクロスでは得点の可能性は低い。厳しいエリアであるものの、バイタルエリアをうまく活かして、ダイレクトプレーで狭いスペースをかいくぐり、複数の選手が連動した動きで少しでもDFの対応を迷わせるプレーをすることで、得点のチャンスの可能性が生まれるだろう。
そのためには、”縦パス”がキーとなり、受け手・出し手ともに縦パスを意識し、それを成功されるための精度の高いプレーが求められる。出し手としては、大島や柴崎がこの3試合のテストマッチで可能性を見せ、ここにきて、香川が本来のパフォーマンスを垣間見せるプレーにより、抜群の受け手としてのポテンシャルを発揮した。狭いスペースで正確なトラップやターンから前を向くことができるのが香川のストロングポイントであり、本田や宇佐美には無い特徴である。本田や宇佐美は下がってきて足元にボールをもらいたがる傾向があり、キープできたとしても前は向くことができず、サイドの選手の上がりに合わせてパスを出すのが精一杯となる。それではゴールに近づいたことにならず、相手としては全く怖くないだろう。
香川が受け手として最高のプレーをしたとしても、そこから1人で突破できる可能性は限りなく低い。周りの選手が連動して動くことが求められる。その意味では、セレッソでチームメイトであった乾は香川を意識したポジショニングを取ることができ、的確な距離感の中でイメージを共有していたように見える。また、乾は柔らかいボールタッチができるため、狭いスペースで香川とパス交換して突破するにはうってつけの存在である。
香川、乾、柴崎は外せない戦力であることを証明した
ユニットとして好パフォーマンスを発揮した香川と乾、そして、終始縦への意識をもってプレーした柴崎は、本大会でも外せない選手であることを証明しただろう。さらには、香川と乾が前線でのプレスをかけ続け、巧みなポジショニングで相手のビルドアップでのパスコースを限定するプレーを見せたことも非常にプラスである。本田と宇佐美がプレスの面でも物足りないプレーを見せた点も踏まえ、完全に序列が変わったと言っていいだろう。ここに、運動量豊富な原口を組み合わせることが今の日本代表の前線としてベストな組合せであると考えられる。
柴崎は、常にゴールにつながる縦への意識をもってプレーし、単純な縦パスのみでなく、香川を飛ばして岡崎に鋭いパスを入れたり、大きなサイドチェンジで展開するなど、攻撃の起点としての能力を存分にアピールした。セットプレーのキッカーも務めた柴崎は、オウンゴールを誘発するだけでなく、バー直撃のフリーキックも見せ、貴重なセットプレーからの得点源にもなる存在となった。大島とのポジション争いや大島と柴崎の共存の可能性が注目される。試合の中で守備の時間が多くなり、その攻撃センスを発揮できる回数は少ないかもしれないが、だからこそ、その少ないチャンスを決定的なものにするためのセンスを持った選手が必要だろう。
次は本番コロンビア戦。あとはもう全力を尽くすのみ
3試合のテストマッチが終わり、次はとうとうワールドカップ本番の初戦コロンビア戦を迎える。監督交代により激震が走った中、選手たちは徐々に本来のパフォーマンスを取り戻しつつある。監督が変わったからと言っても、この4年間の歩みがゼロになるわけではない。チームのベースは少なからず残っているはずであり、最後は選手たちが自信を持ってプレーをやり遂げるのみである。決して諦めることなく、1つでも多くの勝利を目指してほしい。