田中碧と大島・守田との違いとは?【田中碧のパス分析:第31節 鹿島アントラーズvs川崎フロンターレ】

川崎フロンターレ

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今J1で最も伸び盛りな選手と言っても過言ではない川崎フロンターレのボランチ・田中碧。東京五輪を目指すU-22でもレギュラーを確保しつつあり、フロンターレでも欠かせない存在に。

大島や守田らの日本代表レベルの選手たちとクラブでポジションを争う中で、自身の特徴を伸ばしつつ、他の選手の特徴を吸収しようとしている。

 

シーズン終盤のビッグマッチ。優勝争い真っ只中の鹿島アントラーズのホームに、優勝が絶望的ながら諦めない川崎フロンターレが乗り込んだ一戦。

アウェイ鹿島戦での田中碧のパフォーマンスを、パスに注目して分析してみたい。

試合の全体像は、せこさんのレビューで振り返ってください。
「神は細部に宿る」~2019.11.9 J1 第31節 鹿島アントラーズ×川崎川崎 レビュー

 

前後半で内容が大きく異なった試合で、田中碧のパフォーマンスは?

田中碧は4-2-3-1のボランチの一角としてフル出場。結果はアウェイの川崎が0-2で勝利。

ボール保持率は両チームともに50%ながら、シュート数は鹿島の17本に対して川崎は7本。鹿島が優勢に進める時間帯が多い試合となった。

この試合で田中碧は、ボールタッチ数(81本)パス本数(64本)両チーム最多を記録。

田中碧のプレーはチームのパフォーマンスにどれほど影響を与えただろうか?

 

まずは、田中碧の時間帯別パス本数(横軸は試合時間)を見てみる。

第31節_鹿島戦_川崎フロンターレ_田中碧の時間帯別パス本数

序盤は川崎がボールを支配して優勢に進める時間帯を作ったものの、前半の終盤以降は鹿島が優勢に進め、それが試合終了まで続くことに。

田中碧は、序盤は多くのパスを出しているものの、後半は一気に本数が減っている。全体的に川崎が優勢に進めた時間帯と田中碧の時間帯別パス本数はリンクしており、川崎の攻撃を展開する上で田中碧は欠かせない存在になっていると言えるだろう。

 

前後半の田中碧のパスの違い【パスソナー分析】

この試合の田中碧のパスを、パスソナーでもう少し詳細に見てみよう。

パスソナーとは、「パスを出した位置(ピッチをエリアで30分割)」「パスの方向(12方向)」を表すものである。下が自陣で上が敵陣となり、下から上が攻撃方向となる。
※パスソナー作成ツールはこちら。https://passsonar.netlify.com/

田中碧のパスソナー(フルタイム)第31節_鹿島戦_川崎フロンターレ_田中碧のパスソナー

この試合の田中碧のパスソナーを見ると、ボランチらしくピッチ中央が多いながら、自陣・敵陣、左右のサイドまで、幅広いエリアでパスを出していることがわかる。豊富な運動量とダイナミックなプレーが持ち味であり、ピッチの幅広いエリアでプレーに関与していたことがわかるだろう。

 

この試合では、前半・後半で大きく試合内容に変化があり、前半は両チームともに優勢な時間帯を作ったものの、後半になると鹿島の優勢な時間帯が続くこととなった。

そんな中で田中碧のパフォーマンスはどうだったか。

田中碧のパスソナー(前半のみ)
第31節_鹿島戦_川崎フロンターレ_田中碧のパスソナー(前半)

前半の田中碧のパスソナーを見ると、自陣側でのパスが多いことがわかる。これは、川崎の最後方からのビルドアップにおいて、田中碧がCB間に下りて相手の2トップのプレスに対して数的優位を作り、前進の起点となる役割を担っていたためである。

さらにパスの方向に注目すると、中央の守りが堅い鹿島に対して、前(上)方向の縦パスはあまり出せておらず、横パスやサイドへのパスが多いことがわかる。拮抗した展開となった前半を表しているデータとも言えるかもしれない。

田中碧のパスソナー(後半のみ)第31節_鹿島戦_川崎フロンターレ_田中碧のパスソナー(後半)

一方、後半の田中碧のパスソナーを見ると、守備の時間が増えたことでパス本数は前半のほぼ半分(42本→22本)になっているものの、敵陣でのパスの割合が前半よりも増えており、さらに全体的に前(上)方向のパスが増えている。

鹿島の攻撃を防ぎつつ、より縦に早い攻撃が多くなった後半において、鹿島の守備ブロックが自陣で整い切る前に前進するシーンで貢献度の高いプレーができていたと言えるだろう。

 

田中碧のパスはどれほど効果的だったか?【レイヤーによる分析】

この試合の田中碧のパスがどれほど効果的だったかをより詳しく見るために、レイヤーごとのパス本数を見てみよう。

レイヤーとは、相手の守備ブロックの3本のライン(FW、MF、DF)がある中で、どのエリアでプレーしたかを表すものである。

より相手ゴールに近いレイヤー(第3,4レイヤー)でプレーしたほうが効果的であり、レイヤーをまたぐ(守備ブロックを超える)ようなパスは効果的となる。

この試合、鹿島はおなじみの4-4-2の守備ブロック。田中碧はボランチであるため、ベースの立ち位置は第2レイヤー(FW-MF間)となる。

第31節_鹿島戦_川崎フロンターレ_田中碧のレイヤーごとのパス本数

田中碧のレイヤーごとのパス本数(カッコ内の数字は失敗したパス本数)を見てみると、後方でのパスが多いことがわかる。ただし、最後方からもFW-MF間からも、レイヤーをまたぐ(相手の守備ブロックのラインを超える)パスを多く出しており、川崎のビルドアップでの前進に大きく貢献していたと言えるだろう。

 

さらに前後半に分けて見ることで、試合内容の変化に伴う役割やプレーの変化をチェックしたい。

第31節_鹿島戦_川崎フロンターレ_田中碧のレイヤーごとのパス本数(前後半比較)

前後半で比較するとその違いは明らかである。前半は鹿島の守備ブロックが整った状態で最後方から前進するプレーに多く関与しているが、逆に後半になると、より高い位置でボールに関与し、パス本数が減った中でもレイヤーをまたぐパスでチャンスを作ることに貢献していたことがわかる。

アシストなどは付かなかったものの、試合内容や得点状況に応じた効果的なプレーを選択できる選手であると言えるだろう。

 

大島・守田との違いとは?【過去のパス分析データとの比較】

田中碧に注目して90分間見続けて気になったのは、「利き足である右足を使う割合」「パスを出す前の動き」

田中碧の「右足のボールコントロール」

過去のパス分析のデータを使って大島・守田と比較してみると、田中碧は利き足の右足でのパスの割合が大島や守田と比べて多いことがわかる。

田中碧、大島、守田の利き足のパスの割合の比較

1試合だけのデータなのでこれだけで断定はできないものの、ボールに関与する際の一連のプレーを見ていると、トラップしたあとに右足でボールをコントロールしやすい位置にトラップの置き所を決めている印象が強く残った。

当然ながら大島や守田も次のプレーをイメージした上でトラップの置き所を決めているのは間違いないものの、次のプレーの方向や近くにいるDFの立ち位置によっては利き足でないほうにトラップすることも多いのではないだろうか。

逆に田中碧の場合は、とにかく右足でコントロールしやすい位置にトラップし、どんなに狭いスペースや寄せられた状況でも、体の使い方や向き、右足を使ってのボールコントロールによって、ボールロストしないプレーを成立させているように見えた。

ただし、足元にボールが吸い付くようなボールタッチをしているというよりは、状況の認知・判断の素早さと瞬間的なクイックネスによって支えられているプレーなのではないだろうか。相手DFとの距離がかなり近い状況でも怖がらずにパスを受けられるのも、それらのスキルのおかげであるように思える。

さらに、運動量の豊富さと状況判断の素早さによる攻守の切替時のプレーの早さも特徴的であるが、「最悪ボールロストしても素早い切り替えによって奪い返せばいい」という発想で、より厳しいシチュエーションでの繊細なボールコントロールを磨いてきているようにも思える。

 

田中碧の「パスを出す前の動き」

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パスを出す前の動きにも、大島や守田とは異なる特徴があるように感じた。

大島や守田が前進するためのスイッチとなるようなプレーをするときは、ダイレクトパスを使っている印象が強いのに比べ、田中碧の場合は、自分で2,3タッチ持ち運び対面の相手を交わしたり縦パスのコースを自分で作ることでスイッチを入れるプレーをしている印象が強く残った。これは球離れが悪いようにも聞こえてしまうかもしれないが、トラップの予備動作からボールを持ち運んでパスを出すまでの一連の動作がスムーズであることから、決して大島や守田に比べて球離れが悪いという印象は残っていない。

 

大島が怪我から復帰して以降、大島は川崎のボール保持時にあらかじめ高い位置を取り、後方からのビルドアップでの前進は田中碧に任せる役割分担が多くなっている。これは、今季の成長著しい田中碧の前進に貢献できるプレーが、より洗練されつつ安定感も増してきたことが影響しているだろう。

ACL出場権獲得のために負けられない残り2戦、田中碧のパフォーマンスが重要になることは間違いない。

 

【※予告※】
シーズン終了後、川崎のボランチ三人衆(大島、守田、田中碧)のこれまでのパス分析データを使って、比較・総括記事を書きます!!

 

過去のパス分析記事はこちら